抄録
【はじめに,目的】 心不全は,主要臓器の需要を満たすだけの循環血液量を供給する事が出来ない状態を表す症候群である.基礎疾患は虚血,不整脈,弁膜症,心筋症など多岐にわたり,低心拍出やうっ血を主な症状とする.一度緩解しても感染や不整脈を契機に容易に再発し,再入院を繰り返しながら心機能が低下する進行性の病態である.近年,心疾患の急性期における救命率の改善や,人口の高齢化に伴い患者数は急激に増加している.また,再入院のたびに集中治療を必要とし,莫大な医療コストを必要とすることで問題となっている.心不全再入院に関する検討は1990年代から始まり,6か月以内に30%程度の再入院を認めるとする報告が多い.しかし,高齢社会が進むにつれ心不全にいたる基礎疾患や原因はより複雑になってきており,的確な治療やリハビリテーションを提供するためには病態を理解することが重要となる.そこで今回我々は心不全再入院の実態を把握し,その特徴を知ることで,再発予防への取り組みに資することを目的に調査し,その傾向を知るべく心不全入院患者の再入院に関する因子について検討したので報告する. 【対象】 平成23年1月以降に当院循環器内科に入院となり,その後自宅退院した心不全症例連続50例(男性36名,女性14名,平均年齢73.6±13.4歳)を対象とした.【方法】 対象を自宅退院後の1年以内に心不全による再入院のあった再入院群と,心不全再入院のなかった非再入院群の2群に分類し,基礎データ(年齢,性別,身長,体重,BMI),入院日数,基礎疾患,増悪原因,心機能(LVDd,LVDs,LVEF,E/e’),血液データ(Hb,Alb,γ-GTP,BUN,Cre,BNP),投薬状況,血圧(収縮期,拡張期),Barthel Indexについて,診療録より後方視的に調査した.統計学的検討には対応のないt検定,χ2検定を用い有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者に不利益が生じないよう十分な配慮のもとで行った.【結果】対象症例の基礎疾患は,虚血34%,弁膜症33%,虚血34%,心筋症16%であった.併存疾患として38%が高血圧を有していた.平均入院日数は19.2日であり,1年以内の心不全による再入院率は24%であり,3回以上の再入院を繰り返す症例は8%であった.βブロッカーは92%の症例に処方されていた.再入院群における心不全の増悪原因は基礎疾患の増悪27%,不整脈24%,服薬忘れ12%,腎機能低下12%,不明12%,水分・塩分の過剰摂取3%,感染症3%,呼吸器疾患3%,過労3%,新たな冠動脈病変の発症3%であった.再入院群では基礎疾患に虚血の割合が多く,入院時のAlbが低値,BUN,Creが高値を示しており,収縮期血圧が低い傾向を認めた.また,退院時のBUNは高値を示していた.退院時BNPは再入院群で高い傾向を示したが,有意差は認めなかった.【考察】近年,慢性心不全の病態解析の進歩は著しく慢性心不全を単なる心疾患とする概念から神経体液性因子を含む広範な異常により生じるという考え方が広まっている.また腎機能との関連が密接であることが明らかになり,心腎連関として話題になっている.今回の結果では再入院群の心不全増悪原因として腎機能低下は全体の12%であり統計学的有意差はなかったが,再入院群で入院時BUN,Cre,退院時BUNが高値であり,慢性的に腎機能が低下している症例において再入院のリスクが高いことが考えられる.また腎機能低下は心不全のみならず,心血管イベントのリスクファクターとしても挙げられる.猪野らは慢性心不全患者に対して長期的な運動療法を行うことにより腎機能を改善する可能性があると報告している.また近年病態の安定した慢性心不全患者に対して積極的な運動療法が実施されている.このため今後は通常の薬物療法と並行し運動療法を行い腎機能の改善を図ることができれば再入院率の改善,心不全患者の予後改善につながることが期待できる.【理学療法研究としての意義】 病態の安定した心不全患者に対して心臓リハビリテーションの一環として理学療法を提供しているが,心不全にいたる基礎疾患や増悪因子により理学療法を行う上でのリスク管理や患者指導の内容が異なる.そこで本研究で得た情報を参考にし,心不全の重症度のみならず各患者の特性を把握した理学療法を提供することが重要であると考える.また患者のADLの向上や自宅退院といった画一的ゴール設定だけではなく,理学療法士も医療従事者として再入院の減少や医療費の高騰を防ぐための方策を図ることも重要な責務であると考える.