抄録
【はじめに、目的】変形性膝関節症に対する手術療法に,高位脛骨骨切り術(以下,High Tibial Osteotomy :HTO)がある.当院では内側開大式高位脛骨骨切り術(以下,Open Wedge High Tibial Osteotomy :OWHTO)において開大部に人工骨としてオスフェリン60(β-TCP,オリンパステルモバイオマテリアル株式会社)を挿入し,内固定材にTomofix(SYNTHES株式会社)を使用し,術後1週間で部分荷重を開始,2週以降で可及的全荷重へ進めている.人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty :TKA)に比べ,歩行時の荷重時痛が残存する印象を受けるが,術前後の経過は明らかになっていない.本研究では,OWHTO術後の歩行能力の回復・改善の関連因子を把握することを目的とし,術前後の歩行速度,疼痛および筋力の推移を計測し,その関係について解析を行った.【方法】対象は,当院にてOWHTOを施行した14症例(男性3,女性11例,年齢64±7.7歳,身長155.4±8.3cm,体重62.1±9.6kg)とした.計測は術前,術後1ヵ月(1M),術後3ヵ月(3M)の時点で実施した.評価項目は,筋力,歩行速度および疼痛とした.筋力は,術側の端坐位での膝伸展(以下,膝伸展),膝伸展拳上(Strait Leg Raising :SLR),背臥位での足関節底屈,背屈について,Hand Held Dynamometer,µTas F-1(アニマ株式会社)を使用し計測した値を体重で除し筋力体重比を算出した(N/kg).歩行能力は10mwsを計測した.疼痛は質問紙法の変形性関節症転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score:KOOS)のうち疼痛項目の合計点(KOOS-pain,9項目,各5点満点,計45点満点)を算出した.なお,KOOSは高得点ほど症状が軽度となる.歩行速度,KOOS-painおよび筋力の術前後の推移について,Friedman検定を用いて解析し,また,各項目の相関分析をSpearmanの順位相関係数を用い解析した.統計的解析には,JSTAT for Windows(佐藤真人,株式会社南江堂)を使用し,有意水準は5%および1%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿っており、当院倫理審査委員会の承認を受け実施し(承認番号:第24-28号),対象者には十分な説明を行い同意を得た.【結果】術側筋力(N/kg)は,膝伸展(術前:3.71±1.50,1M:1.79±0.85,3M:2.89±1.06),SLR(術前:1.55±0.59,1M:0.89±0.53,3M:1.33±0.52),底屈(術前:5.73±2.03,1M:3.95±1.38,3M:5.82±1.14),背屈(術前:2.46±0.84,1M:1.66±0.46,3M:1.99±0.42)であった.歩行速度は術前6.73±2.4sec,1M9.60±1.9sec,3M6.58±1.3secであった.KOOS-pain(点)は術前16.4±8.8,1M16.3±8.1,3M21.8±5.0であった.一元配置分散分析の結果,筋力に関しては,術側膝伸展,SLR,底屈,背屈は1Mで術前より有意に低下したが(p<0.05),3Mと術前では有意差を認めなかった.歩行速度は術前に比べ1Mで有意に低下したが(p<0.01),3Mでは有意差を認めなかった.KOOS-painは術前と1Mで差は認めなかったが,3M では術前に比べ有意に改善した(p<0.05).一方,Spearmanの順位相関係数の結果より,歩行時間とKOOS-painでは術前のみ負の相関関係が認められた(rs-0.61).また,KOOS-painと筋力では,術前足底屈で相関関係が認められた(rs0.62).歩行速度と筋力の関係については,術前術側足底屈(rs-0.59),1M術側膝伸展(rs-0.82),1M術側SLR(rs-0.67),1M術側足底屈(rs-0.86),3M術側膝伸展(rs-0.60),3M術側SLR(rs-0.59),3M術側足底屈(rs-0.78)において歩行時間との負の相関関係が認められた.【考察】以上の結果より,KOOS-painと歩行速度および筋力には術前のみ相関関係が認められた.術側筋力と歩行速度では,1Mおよび3Mの膝伸展,SLR,足関節底屈筋力において有意な相関が認められ,特に1M膝伸展,1M足関節底屈,3M足関節底屈では強い相関が認められた.以上の結果より,術前では,疼痛が筋力および歩行距離に影響するが,術後1か月以降では歩行能力に関しては疼痛より筋力の影響が大きいことが示唆された.術後3ヵ月以降では疼痛・筋力ともに改善するが,歩行能力の改善には相関関係の認められた筋力を強化する必要性があると考えられる.また平澤らは,60歳代の健常者の等尺性膝伸展筋力の筋力体重比平均は男性64.1±12.9kg/Wt×100(N=28),女性50.1±9.4kg/Wt×100(N=56)と報告しており(2004),症例群の筋力低下は著明といえ,膝伸展筋力の強化は重要と考えられる.【理学療法学研究としての意義】HTO術後症例において疼痛ではなく筋力と歩行能力の間に関連を認めたことは,HTO術後のリハビリテーションにおける筋力強化の重要性を示唆しているものと考えられる.