抄録
【はじめに、目的】糖尿病などの代謝疾患の治療を考える上で骨格筋の血管調節機序の理解は必須である。骨格筋の血流は自律神経活動、血管内皮細胞や骨格筋自身の活動により調節されている。骨格筋血流調節には細動脈のトーヌス調節系の重要性は言うまでもないが、静脈のトーヌス調節機序に関しても注目する必要がある。交感神経興奮により遊離されるノルアドレナリン(NAd)は、種々のアドレナリン受容体(α-AR、β-AR)に作用し、動脈および静脈のトーヌス調節に主要な役割を果たしていることはよく知られている。しかしながら、これらの血管に局在するアドレナリンサブタイプ受容体の特徴やその機能は未だ不明な点が多い。我々は、膝窩動脈および膝窩静脈に局在するアドレナリンサブタイプ受容体の特徴をその機能との関連性で明らかにすることを目的として研究を行っている。今回は、膝窩動脈および静脈の平滑筋細胞に局在するα-ARサブタイプの特徴をその機能との関連性で検討した。【方法】8-10 週齢のWister系雄性ラットをセボフルレンにて麻酔し、頸動脈切断後安楽死させた。速やかに膝窩動脈と静脈を採取後、実体顕微鏡下にて、Krebs溶液中で輪状血管標本を作成した。血管の内皮はステンレスピンで注意深く除去し、内皮除去標本を作製した。これらの内皮除去標本を、実体顕微鏡下にてチャンバー中にセットし、等尺性張力を記録した。交感神経の機能を消失させるためにグアチジン(5 μM)を、また、NAdによるβ-受容体活性化を抑制するためβ1/β2 受容体拮抗薬プロプラノロール(0.3 μM)を投与した。標本のセット1 時間後に、高カリウム溶液(70 mM)による収縮を得た。NAd (10 -9 -10-5 M)は累積的に投与し、濃度依存性収縮反応を記録した。NAdの濃度依存性収縮反応を記録後、α1 -AR拮抗薬であるプラゾシンまたはα2-AR拮抗薬ヨヒンビンを前投与し、それぞれの拮抗薬存在下でNAdの濃度依存性収縮反応を記録した。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は名古屋市立大学動物実験倫理委員会の規定に従って行った。【結果】高カリウム溶液およびNAd (10 μM)による最大収縮の大きさは、膝窩動脈>膝窩静脈であった (P<0.001)。NAd (10 -9 -10-5 M)は動脈および静脈で濃度依存性に収縮を発生させた。プラゾシンは膝窩動脈と膝窩静脈のNAd収縮をともに抑制したが、その抑制反応の感受性は静脈>動脈であった(低濃度プラゾシンは静脈でより強くNAd収縮を抑制する、P<0.001)。ヨヒンビンは膝窩動脈と膝窩静脈のNAd収縮をともに抑制したが(P<0.001)、その反応のヨヒンビンに対する感受性は静脈>動脈であった(P<0.05)。ヨヒンビンはプラゾシン存在下でのNAd収縮を静脈でのみ有意に抑制した(P<0.001)。【考察】これまで、骨格筋の供給動脈に局在するアドレナリンサブタイプ受容体の種類やそれぞれのサブタイプ受容体の生理機能に関する研究は行われているが、骨格筋の静脈に局在するアドレナリンサブタイプ受容体の種類やその機能に関する研究はほとんど行われていない。本実験で、高カリウム溶液(70 mM)とNAd (10 μM)による最大収縮の大きさは動脈>静脈であった。これは、両血管の平滑筋細胞の数の違いによるものと考えられる。また、動脈と静脈での収縮に対するNAdの感受性は動脈>静脈であり、NAd-収縮抑制に対するα1 -AR拮抗薬プラゾシンの反応性は静脈>動脈であった。これらの結果は、収縮に関与するα1-ARサブタイプが動脈と静脈で異なっている可能性を示唆する。さらに、ヨヒンビンはプラゾシン存在下でのNAd-収縮を膝窩静脈で抑制した。この結果は、静脈でのNAd収縮の一部にα2 -ARが関与している可能性を示唆する。今後、糖尿病などの代謝疾患病における骨格筋供給動脈と静脈の機能変化やARサブタイプの発現量変化などを明らかにし、これらの疾患における運動療法による治療効果との関連性を明らかにしたい。【理学療法学研究としての意義】理学療法学的治療効果の向上を考えていく上で、骨格筋のエネルギー代謝を調節する血流再分配機構の解明は必須であり、本研究成果はその基礎的な知見を提供するものと考えられる。