理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-04
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セレクション口述発表
トレッドミル運動およびスタティックストレッチングはラット後肢ギプス固定後にみられる痛覚過敏、関節可動域制限および筋萎縮を改善した
森本 温子Winaga Handriadi櫻井 博紀大道 裕介大道 美香牛田 享宏佐藤 純
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キーワード: 不動, 痛覚過敏, 運動療法
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抄録

【はじめに、目的】四肢関節の不動化に伴う廃用は慢性痛の一因となり、その治療戦略として運動療法が選択されることが多い。近年になって、神経障害性疼痛や炎症性疼痛に対する運動療法の鎮痛効果が基礎的研究にて示されつつあるが、不動化や廃用に伴う慢性疼痛への運動効果は検証されていない。一方、我々はラットの片側後肢を2 週間ギプス固定すると、解放後に固定部の発赤、浮腫、発熱に続き、固定部を越えて拡がる皮膚・筋の機械的痛覚過敏が長期継続することを報告している(大道ら2012)。そこで、本研究ではこの不動化モデル動物を用いてトレッドミル運動およびスタティックストレッチングが慢性痛を抑制する効果があるか検討した。【方法】雄性SDラット(10 週齢、n=25)を用い、体幹から左後肢を石膏ギプスにて2 週間固定し、慢性疼痛モデル(chronic post cast pain:CPCP)を作成した。実験1:運動実施時期を決定するため、1.5テスラー小動物用MRI装置を用いて後肢の(A)T1 強調画像、(B)T2 強調画像、(C)ガドリニウム静注後T1 強調画像をマルチスライス法にて撮像し、ギプス解放後の炎症や浮腫の状態を経時的に確認した。実験2:非運動群(CPCP群、n=8)、トレッドミル運動群(CPCP+TR群、n=9)、スタティックストレッチング群(CPCP+SS群、n=8)に振り分け、CPCP+TRおよびSS群にはギプス固定解放後(以下pc)3 日目から週3 回の頻度で2 週間の運動負荷を実施した。CPCP+TR群には小動物用トレッドミルを用いて、速度12 m/分、1 日あたり30 分間トレッドミル運動を負荷した。CPCP+SS群には滑車付き牽引装置を用い、25g荷重にて後肢を1 日あたり10 分間牽引した。疼痛行動は、下腿皮膚および足底のvon-Frey testおよび腓腹筋部圧痛閾値測定にてpc7 週まで評価した。群間の痛覚閾値の差はMixed-design two-way repeated ANOVAで検定し、post hocとしてTukey-Kramer's testを行った。各群における痛覚閾値の変化はOne-way ANOVAを行い、post hocとしてDunnett's testを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は、国際疼痛学会の倫理委員会が定めたガイドラインに準拠し、愛知医科大学および名古屋大学動物実験委員会の承認のもとに実施した。【結果】実験1:CPCP群の後肢MRI画像では、ギプス固定解放直後から皮膚および血管周囲に浮腫の出現を示唆するT2 高輝度変化が認められたがpc3 日以内に正常化した。そこで、運動開始時期をpc3 日とした。実験2:CPCP群は全ての計測部位でpc7 週まで継続する明らかな痛覚過敏を呈した。一方、CPCP+TR群およびCPCP+SS群では、CPCP群と比し有意に痛覚過敏の発症が抑制された。また、CPCP群ではpc7 週まで有意な関節可動域制限を呈したが、CPCP+TRおよびCPCP+SS群では有意な改善を示した。さらに、CPCP群ではpc3 週目まで有意な下腿筋幅の減少を認めたが、CPCP+TR およびCPCP+SS群ではCPCP群より1 〜2 週間早くもとの値に回復した。【考察】今回、ギプス固定部位の急性変化(浮腫)が消失した後に実施したTRおよびSS運動は、どちらも固定後肢に長期間観察された機械的痛覚過敏、関節可動域制限および筋萎縮を改善した。我々はこれまでにギプス固定除去による虚血再灌流障害が痛覚過敏の発症に関与している可能性を報告した。一方、運動が種々の内因性活性物質の誘導し抗炎症・抗酸化作用を有することが知られていることから、今回のTRおよびSS運動がギプス固定解放後の虚血再灌流障害を軽減し、痛覚過敏を抑制した可能性が示唆された。また一方で、これらの運動が中枢神経系において内因性オピオイドの産生放出を促し下行性抑制系を賦活する報告もあることから、今後運動の疼痛抑制機序を明らかにするには、固定部局所と中枢神経系への影響を検索する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動器の慢性痛の有病率は非常に高く、患者のADL・QOLに対する大きな阻害因子となっている。臨床現場において慢性の運動器痛に対して理学療法が施行されているが、その効果の基礎的検証は未だ端緒についたばかりである。今回の不動化モデル動物を用いた行動学的研究により、2 種類の運動療法が四肢の慢性痛に対して鎮痛効果を持つことが明らかとなった。今後はこの鎮痛効果を生化学的・免疫組織学的に解析することで、臨床現場での病態の把握や評価、適切な運動処方に繋がると考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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