理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-04
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セレクション口述発表
スタティック・ストレッチング後に行う筋収縮が最大等尺性筋力、ROM、stiffness、最大動的トルクに与える影響
後藤 慎鈴木 重行松尾 真吾波多野 元貴岩田 全広坂野 裕洋浅井 友詞
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抄録

【はじめに、目的】スタティック・ストレッチング(static stretching:以下、SST)直後にROM増加やstiffness低下が生じることを示した報告は枚挙に暇がなく、これらを根拠に柔軟性向上を目的としたSSTが実施されている。一方、SST直後には最大発揮筋力が低下するという報告も多数存在し、運動前などにはSSTを避けるべきであるとの主張もなされている。これに対して、先行研究ではSST後に運動負荷を行うことで、SSTに伴う最大発揮筋力の低下やパフォーマンス低下が抑制できる可能性が示唆されている。しかし、これらの報告ではSST後の運動負荷による最大発揮筋力の低下抑制効果が検討されているものの、その際の柔軟性の変化についてはほとんど検討されていない。SSTに伴う最大発揮筋力の低下抑制を目的とした運動負荷の有効性を確立するには、運動負荷がSSTの主効果である柔軟性向上に与える影響についても検討する必要がある。そこで、本研究はSST後に行う運動負荷(低強度の筋収縮)が最大等尺性筋力、ROM、stiffness、最大動的トルクに与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】被験者は健常学生16 名(男性8 名、女性8 名、平均年齢21.0 ± 0.8 歳)とし、対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節および膝関節を約110 度屈曲した座位(以下、測定開始肢位)をとり、等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)を用いて測定を行った。SSTは大腿後面に痛みの出る直前の膝関節伸展角度で300 秒間保持して行った。評価指標は最大等尺性筋力、stiffness、最大動的トルク、ROMとした。最大等尺性筋力は測定開始肢位における膝関節屈曲等尺性筋力の最大値とした。Stiffness、最大動的トルクは測定開始肢位から膝関節最大伸展角度まで5°/秒の角速度で他動的に伸展させた際のトルク‐角度曲線より求めた。StiffnessはSST前の膝関節最大伸展角度からその50%の角度までの回帰直線の傾きと定義し、最大動的トルク及びROMはそれぞれ膝関節最大伸展角度における値とした。実験は各評価指標を測定し、15分の休憩後、SST(SST群)、30%maximum voluntary contraction(以下、MVC)強度の筋収縮(30%MVC群)、SST直後に30%MVC強度の筋収縮(SST-30%MVC群)のいずれかを行い、再び各評価指標を測定した。被験者は3 種類の実験をランダムな順番で行った。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は本学医学部生命倫理審査委員会及び共同研究施設「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認を得て行った。実験を行う前に、被験者に実験内容について文書及び口頭で説明し、同意が得られた場合にのみ研究を行った。【結果】最大等尺性筋力はSST群では介入後に有意に低下し、30%MVC群及びSST-30%MVC群では介入前後に有意な差は認められなかった。stiffnessはSST群では介入後に有意に低下し、30%MVC群及びSST-30%MVC群では介入前後に有意な差は認められなかった。最大動的トルクはSST群、30%MVC群及びSST-30%MVC群のすべての群で介入後に有意に増加した。また、SST-30%MVC群の介入後の最大動的トルクはSST群の介入後と比較して有意に高値を示した。ROMはSST群、30%MVC群、及びSST-30%MVC群のすべての群で介入後に有意に増加した。【考察】本研究結果から、SST後に行う運動負荷(低強度の筋収縮)はSSTに伴う最大等尺性筋力低下を抑制でき、最大動的トルクを増加させるが、柔軟性の指標であるstiffness低下も抑制することが示唆された。SST後の最大発揮筋力低下のメカニズムに関する先行研究を渉猟すると、SSTによる筋腱複合体のstiffness低下が一要因であると報告されている。これらの報告と本研究結果を加味すると、運動負荷による最大等尺性筋力低下の抑制メカニズムとしては、SSTによって低下したstiffnessが低強度の筋収縮により増加したことによると推察される。興味深いことに、SST後のROMは運動負荷の有無にかかわらず同程度増加した。本研究で測定した最大動的トルクは痛みを誘発するために必要な伸張量であり、その値は伸張刺激に対する痛み閾値を意味している。したがって、SSTによるstiffness低下が運動負荷によって抑制されたにもかかわらずROMが増加したのは、主に最大動的トルクの増加、すなわち、痛み閾値の増加によってもたらされたものと推察される。【理学療法学研究としての意義】SST後に低強度の筋収縮を行うと、SSTに伴う発揮筋力低下を抑制できるが、柔軟性に対する効果も抑制することが示唆された。理学療法おいてSSTは頻繁に用いられ、その後に運動負荷が行われることも多数想定される。SSTとその後の筋収縮による影響の基礎的なデータが明らかになったことで、より適切なSST実践に向けた一助になるものと考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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