理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-19
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一般口述発表
手関節掌背屈での正中神経の変化と末梢血流の動態
神嵜 淳山本 拓橋本 貴文本多 雄一安倍 基幸
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抄録

【はじめに、目的】脊髄損傷患者など車いすを乗用している障害者は手関節を強制背屈することでトランスファーや車椅子駆動を行っている。そのため脊髄損傷患者は二次障害として高い頻度で手根管症候群を合併することが報告されている。その原因として手関節のoveruseと肢位が考えられる。手関節肢位に注目すると、肢位の違いによる正中神経の画像上の変化に関しての研究は少なく、また肢位での末梢血流の動態を比較した先行研究はない。そこで健常者を対象に手関節中間位、掌屈位、背屈位でのエコーによる正中神経の変化と、近赤外分光法(near-infrared spectroscopy: 以下NIRS)での末梢母指球筋部の組織血流を測定し検討したので報告する。【方法】対象は、現在神経症状がなく、上肢末梢神経障害の既往歴がない健常の男性10 名、女性12 名(年齢は22 ± 1 歳、利き手は全例右手)の合計22 名22 手とした。エコーはBモード法(12MHz)短軸像とし、ランドマークは舟状骨頂点とした。手関節中間位、手関節掌屈位60°、手関節背屈位90°で得られた利き手の短軸像より正中神経の長径、短径、扁平比(長径/短径)、皮膚からの正中神経上縁までの距離、舟状骨の頂点からの正中神経の中心までの距離、面積(正中神経を楕円形と仮定し、(長径/2)×(短径/2)× 3。14 で算出)をそれぞれ計測した。また、計測は複数行い平均を値とした。NIRSでは、座位で胸部の高さに上肢を挙上し、同様の手関節肢位にて、組織酸素化血液量(oxy-Hb)、組織脱酸素化血液量(deoxy-Hb)、組織全血液量(total-Hb)、組織血液酸素飽和度(StO2)を利き手の母指球筋部にて測定した。送光用プローブと受光用ディテクタとの送受光間距離は1cmとした。それぞれの肢位で2 分間連続して計測し、最終30 秒の平均を値として採用した。統計学的検討は、Tukey法での多重比較検定とし、危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は研究委員会の承認を得て、全対象者に対して研究内容、安全対策、研究への同意と撤回、個人情報管理について十分に説明し、同意を得た上で行なった。【結果】正中神経の長径は掌屈位に比べ、背屈位が有意に大きかった。一方、短径は、掌屈位と比べ、背屈位で有意に小さかった。正中神経の扁平比は、掌屈位と比べ、背屈位で有意に大きかった。皮膚からの正中神経上縁までの距離はそれぞれの肢位で有意な変化はなかった。舟状骨からの距離では背屈位と比べ掌屈位で有意に短かった。面積においてはそれぞれの肢位で有意な変化はなかった。oxy-Hbは中間位と比べ、背屈位で有意に低下し、一方、deoxy-Hbは中間位と比べ背屈位で有意に増加した。 total-Hb は、それぞれの肢位で有意な変化はなかった。StO2 は、中間位と比べ背屈位で有意に低下した。【考察】扁平比は長径を短径で除した値なので正中神経圧迫の指標となる。これが大きいほど圧迫の程度が大きい。正中神経の長径、短径、扁平比の結果より背屈位は掌屈位よりも正中神経を圧迫する肢位と言える。中間位と比べると、背屈位では扁平比は有意な変化がなかったが、大きい傾向にあった。掌屈位では扁平比が小さく、舟状骨からの距離が短いと言うことは正中神経が圧迫から逃れるように橈側深部に移動したことによるものである。他方、中間位・背屈位、特に背屈位では下方の浅指屈筋腱が正中神経をそのまま押し上げる形となる。このように肢位により正中神経が変化・移動することがエコーにより確認された。NIRSによる末梢の組織血流の動態では、中間位と比べ背屈位では動脈血流量が減少し、同時に静脈血流量が増大したことを示している。背屈位では、手関節部の末梢血管を圧迫し動脈・静脈とも血行が不良になったと考えられる。背屈位が長期間・慢性的に行われるとエコー所見での圧迫傾向に加え、末梢神経そのものにも血行障害が生じ結果的に易損性となり正中神経障害を引き起こす可能性があると推測する。【理学療法学研究としての意義】車いすを常用している障害者に対して、正中神経障害を予防するための手段の開発の一助になるという点が本研究の意義である。研究の結果は。健常者を対象としたものだが、車いすを常用している障害者も同様な変化が予想される。

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© 2013 日本理学療法士協会
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