理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-19
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一般口述発表
段階的起立負荷時におけるエコーと近赤外線分光法による下肢静脈血流動態
舟橋 瞳鈴木 明音
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抄録

【はじめに、目的】臨床現場における起立負荷時の循環反応については,多数の報告が行われてきた.全身循環でなく下肢の静脈循環に関しては,下肢静脈のエコーによる評価があり,起立負荷時に下肢静脈還流量は減少する.また,局所組織血流の把握に用いられる近赤外線分光法(near infrared spectroscopy;NIRS)では,組織脱酸素化血液量(deoxy-Hb),組織酸素化血液量(oxy Hb),組織総血液量(total-Hb)が測定可能であり,起立負荷時に下肢で測定したdeoxy-Hbは増加する.しかし,起立負荷時の下肢静脈還流量と下肢の組織血流をエコーとNIRSを同時に測定し,関係性を検討したものはない.そこで,我々は健常者を対象に,起立負荷時においてエコーを用いた大腿静脈還流量と,NIRSを用いた下肢局所組織血流量とを比較検討することを目的とした.尚,過去の報告は急速な姿勢変換による検証であったため,我々は段階的に姿勢変換させることでより明確な血流変化を捉えることにした.【方法】対象は健常男性14 名(年齢21 ± 1.0 歳)とした.被験者はTilt table上にて背臥位となり,4 分の安静臥位後,2 分毎にTilt 角度を15°30°45°60°と段階的に変化させた.血圧・心拍数は右上腕動脈に装着した電子非観血式血圧計を用いて測定し,平均血圧を算出した.心拍数・平均血流量は1 分毎に計測して平均を算出した. また,姿勢変換を行う2 分毎に下肢からの静脈還流量を評価した.エコーパルス・ドプラー法にて血管プローブ(8MHz)を左大腿静脈にあて,最大静脈血流速度,平均静脈血流速度を,B-モード法で長軸像より大腿静脈直径を求めた.平均静脈血流速度と大腿静脈直径より分時大腿血流量(ml/min)を算出した.エコー測定と同時に局所の下肢血流動態をNIRSにて計測した.NIRSの送受光ディテクタは左下腿の腓腹筋内側頭部に添付し,deoxy-Hb,oxy-Hb,total-Hbを測定した.全ての測定結果は,安静臥位を100%とした際の変化率で表した.統計処理は,一元配置分散分析,Tukey法の多重比較検定,及びPearsonの積率相関係数を求めた.危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は研究委員会の承認を得て,全対象者に対して研究内容,安全対策,研究への同意と撤回,個人情報管理について十分説明し,同意を得た上で行った.【結果】平均血圧はTilt角度0°に対して全ての角度で有意な増減は無かった.心拍数はTilt角度0°に対して60°で有意に増加した.また,同部位の最大血流速度は0°に対し測定された全ての角度で有意な減少を示した.左大腿静脈の分時血流量は,0°に対し45°60°で有意な増加を示した.deoxy-Hbは0°に対し45°60°で有意な増加を示し,分時血流量及び最大血流速度と相反する傾向となった.oxy-Hb・total-Hbはともに各角度間で有意な変化はみられず,oxy-Hbは0°に対して60°で減少傾向を,total-Hbは増加傾向を示した.deoxy-Hbと,最大血流速度と分時血流量の相関関係は,最大血流速度はr=-0.520(p<0.01)であり,分時大腿血流量はr=0.402(p<0.01),最大血流速度のほうがより強い相関を示す結果となった.【考察】本研究の結果は,起立負荷角度の増大により,エコーで測定した最大血流速度及び分時血流量が減少することを示している.一方,NIRSでの結果の解釈として deoxy-Hbは静脈にしか存在しないため,deoxy-Hbの有意な増加は起立時の局所での組織静脈血流貯留を示す.起立負荷角度の増大により,下肢へ静脈血が更に貯留し,結果として静脈還流が低下していることが理解できる.これらは健常者にとっては正常な生理的反応であると思われる.下肢への静脈血液貯留に対し,起立負荷時のtotal-Hbは有意な増加がみられず,oxy-Hbは減少傾向となったが,これは,起立負荷による静脈還流量の減少に伴い,一回心拍出量が減少したためであると思われる.それに伴い一回心拍出量を維持するため心拍数が増加する結果となったと考える.以上より,段階的な起立負荷時における大腿静脈最大血流速度及び分時大腿血流量と,下肢局所のdeoxy-Hbは相関しており,NIRSでのdeoxy-Hb評価は下肢静脈血流動態の指標となりうることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】段階的起立負荷時のエコーによる大腿静脈血流動態と,NIRSによる下肢局所組織血流動態を同時に比較検討した先行研究はみられない.本研究の結果より.deoxy-Hb評価は簡便な起立負荷時の下肢静脈血流量の指標になりうる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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