理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-S-01
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セレクション口述発表
脳卒中片麻痺下肢への全身振動刺激 (Whole body vibration) による痙縮抑制効果: 誘発電位F波を用いた検討
宮良 広大松元 秀次上間 智博廣川 琢也池田 恵子野間 知一下堂薗 恵川平 和美
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抄録

【はじめに、目的】 痙縮に対する治療法として,我々は振動刺激痙縮抑制法を考案し,脳卒中片麻痺上肢の痙縮を抑制することで物品操作能力を改善させ,更には運動療法との併用にて長期的な痙縮抑制と麻痺の改善が得られることを報告している。一方,下肢における痙縮抑制効果については,全身振動刺激 (Whole body vibration: WBV) を用いて,成人脳性麻痺や脊髄損傷,多発性硬化症で報告はあるが,脳卒中片麻痺についての報告は少ない。我々は,第47回の本学会において,脳卒中片麻痺下肢へのWBVが痙縮を抑制し,運動機能や他動関節可動域,歩行速度に改善が得られたことを報告した。本研究ではWBVによる痙縮抑制メカニズムの解明のために,脊髄前角細胞の興奮性評価に用いられる誘発電位F波を用いて検討した。【方法】 対象は,当院入院中の脳卒中片麻痺患者8名で,下肢Brunnstrom Recovery Stageが3以上かつ,痙縮の程度が下腿三頭筋のModified Ashworth Scale (以下,MAS) が1以上,屋内歩行監視レベル以上のものである。なお,医学的管理上問題があるもの,重度な高次脳機能障害や認知症,心肺疾患,骨関節疾患,感覚障害を有するものは除外した。研究デザインは介入前後比較試験を用い,振動刺激の前後での評価を行った。被験者の肢位は椅子上で長座位とし,股関節を屈曲位,内外旋中間位,膝関節伸展位にした。刺激中は痛みが出現しない範囲で膝関節伸展位,足関節背屈位の最大角度に保持し,麻痺側下腿全体及び大腿部1/2以上にPower Plate® (株式会社プロティア・ジャパン社製) の台上が接する形で,下腿三頭筋とハムストリングスを中心に振動刺激を行った。刺激条件は,周波数30Hz,振幅4–8mm,5分間とした。評価項目は,下肢機能は痙縮と運動機能,他動関節可動域を測定した。痙縮の評価はMAS (股関節内転筋群とハムストリングス,下腿三頭筋) と誘発電位F波を用いた電気生理学的検討を行った。運動機能は足関節自動背屈角度を,他動関節可動域は足関節他動背屈角度とStraight Leg Raising test (以下,SLR検査) を測定した。歩行評価は短下肢装具やT字杖使用下での10m歩行で行い,歩行速度とケイデンスを算出した。F波の記録は,脛骨神経を膝窩部にて最大上刺激で刺激頻度1Hzにて行い,腓腹筋で20回記録した。F波の指標としてはF波振幅 (平均値・最大値) とF/M比 (平均値・最大値) を用いた。MASの値は統計学的解析のために,グレード0,1,1+,2,3,4を各々,0,1,2,3,4,5として処理した。統計学的解析は,PASW Statistics 18を用いてWilcoxonの符号順位和検定を行い,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,鹿児島大学病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者に研究の趣旨を説明し,文書による同意を得て実施した。【結果】 介入前後の即時的な変化を以下に示す。MASは股関節内転筋群 (前: 1.5±0.9,後: 0.9±0.8) で低下傾向 (p=0.059),ハムストリングス (前: 0.8±0.9,後: 0.3±0.5) と下腿三頭筋 (前: 2.5±0.5,後: 1.8±0.7) において有意な筋緊張の低下を示した (p<0.05)。F波は,F波振幅,F/M比ともに有意に低下した。運動機能は,足関節自動背屈運動が認められた4名に改善がみられ (前: 5.0,後: 10.0度),足関節他動背屈角度 (前: 17.5±6.5,後: 21.3±5.2度) とSLR検査 (前: 76.9±5.3,後: 84.4±8.2度) が有意に改善した (p<0.05)。歩行は歩行速度 (前: 39.1±12.9,後: 42.8±13.8m/min) とケイデンス (前: 100.4±9.5,後: 105.6±9.6steps/min) が有意に改善した (p<0.05)。【考察】 脳卒中片麻痺下肢に対してWBVを用いた痙縮抑制効果を検討し,介入後の下肢機能や歩行速度,ケイデンスに改善がみられ,F波においてもF波振幅,F/M比ともに有意に低下した。本研究結果から,WBVによる痙縮抑制効果は,上位中枢の変化,または脊髄前角細胞の興奮性低下が関与していると考えられた。今後は,症例数を増やし,対照群を設けた研究デザインでの検討や,詳細なメカニズムの解明および長期的な効果を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 この脳卒中片麻痺下肢へのWBVによって,短時間で効率よく痙縮を抑制することが実証されれば,効果的かつ効率的な脳卒中リハビリテーション医療の実現に寄与する。

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© 2013 日本理学療法士協会
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