理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-S-02
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セレクション口述発表
排痰補助装置使用による筋萎縮性側索硬化症患者のストレス変化
北野 晃祐甲斐 悟高橋 精一郎菊池 仁志
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抄録
【目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性疾患であり,横隔膜を始め腹筋群が萎縮することで,咳嗽運動能力が低下する.咳嗽運動能力低下に対しては,排痰補助装置(カフアシスト:以下MAC)の導入が推奨され,平成22年度の診療報酬改定より在宅人工呼吸器使用患者に反映されている.また,MACは強制吸気量増加や無気肺予防効果も期待されることから,ALS診断早期の導入にも有用である.しかし,MACは非生理的な刺激である気道への陽圧と急速な陰圧が導入時の違和感として聴取される場合がある.今回は,MAC使用時におけるALS患者のストレスについて唾液アミラーゼを用いて検証する.【方法】対象は,MAC を通常プログラムとして使用しているALS患者12名.使用目的により排痰群7名(年齢59.9±11.6歳,平均設定圧39.7±0.7cmH2O)と強制吸気量増加(以下,強制)群5名(年齢65.6±9.1歳,平均設定圧33.2±5.4cmH2O)の2群に分けた.MACは,各患者の通常使用時の安静姿勢を5分間保持した後に,担当理学療法士により3セット実施した.MACによるストレスを確認する為に,安静姿勢保持5分後とMAC1セット目直後,3セット目直後に唾液アミラーゼをNIPRO社製モニター(CM‐21)により測定した.飲食物の影響を避けるために,検査前2時間は飲食を禁止した.さらに,測定開始前に真水によるうがいを3回実施した.球麻痺患者には,言語聴覚士により真水を用いて口腔ケアを行った.MAC使用中はパルスオキシメータ(スター・プロダクト社:リストックス)を右中指に装着し,経皮的酸素飽和度(SpO2)と脈拍を測定した.統計学的処理にはDr.SPSS II for Windowsを用い,一元配置分散分析後に多重比較検定を行った.有意水準を5%未満とした.【説明と同意】対象者には,紙面を用いて研究概要を十分に説明し同意を得た.調査は当院倫理委員会の承認を受けて実施した.ヘルシンキ宣言を遵守し,個人が特定されることがないよう注意した.また,研究への同意を撤回する権利を有することを説明した.【結果】排痰群は,唾液アミラーゼが安静時110.0±47.6KU/L,1セット直後49.0±19.7KU/L,3セット直後72.7±54.1KU/Lに推移し安静時に比べて1セット直後に有意な低下(p<0.05)を認めた.脈拍は同順に77.8±10.5拍/分,80.7±10.5拍/分,85.2±12.6拍/分に,SpO2値は同順に97.1±1.2%,97.7±0.9%,98.0±0.8%に推移し,有意な変化を認めなかった.強制群は,唾液アミラーゼが144.4±204.2KU/L,183.2±225.6KU/L,124.0±100.0KU/Lに,脈拍が70.0±7.4拍/分,70.2±9.6拍/分,70.6±6.8拍/分に,SpO2値が94.4±2.8%,95.2±1.6%,96.0±1.5%に推移し,いずれの指標にも有意な変化を認めなかった.【考察】ALS患者に対するMAC使用時の唾液アミラーゼは,排痰群が安静時に比べて1セット目直後に低下し,排痰によりストレスが軽減したと思われる.ALS患者は疾病の進行に伴い拘束性障害を来たすが,喀痰が貯留することにより閉塞性障害と同様の障害も示す.今回SpO2値は有意差を認めなかったが平均値で上昇し,ガス交換の促進を示している.排痰群は貯留していた喀痰が排出されたことにより,閉塞性障害が改善されガス交換が促進されたことが,唾液アミラーゼ低下の一因と考えられる.強制群において全項目で有意差を認めなかった.平均値は脈拍の低下とSpO2値の上昇が確認され,使用目的である吸気量の増加を図った効果は得られている.排痰群の唾液アミラーゼが低下し,強制群で変化しなかったことから,MAC はALS患者に対して排痰を行うことでストレスを緩和させ,ストレスなく強制吸気量増加が図れる機器と考えられる.【理学療法学研究としての意義】排痰補助装置であるカフアシストは,ALS患者にストレスを生じさせずに使用可能であり,排痰によりストレスを緩和させることを示した.
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© 2013 日本理学療法士協会
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