理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-32
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ポスター発表
一側の下肢運動は対側下肢の静脈還流に影響を与えるか
橋本 貴文本多 雄一神嵜 淳山本 拓安倍 基幸
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抄録

【はじめに、目的】深部静脈血栓症(以下DVT)は臨床現場において外傷や急性期脳卒中患者,術後例などの活動性が低下した患者の下肢静脈に起こり得る.誘発因子として安静臥床による下肢静脈血流うっ滞が知られており,予防として弾性ストッキング装着,早期離床が実施されており,先行研究にてこれらが有用とされ,下肢静脈環流を上昇させ血流改善が図られると報告されている.しかし,急性期脳卒中患者に対する弾性ストッキング着用はDVT発生頻度を低下させる効果は無く,スキントラブルの発生率が上昇する等の悪影響をもたらすと報告されている.早期離床では,車いす坐位を取らせることが多いが,急性期脳卒中患者の漫然とした車いす坐位では,麻痺側自動運動困難により静脈還流量低下を伴い,血流うっ滞を起こし易くDVT発症率が高いとされている.そこで本研究では効率的な予防法として,先行研究で報告されていない,残存機能である一側(非麻痺側)の下肢運動が対側下肢(麻痺側と仮定)の静脈環流に影響を与えるか否かを,健常者を対象とし検討を行ったので報告する.【方法】対象は若年健常男性17 名(21 ± 1 歳)とした.左大腿静脈の背臥位・座位それぞれの静脈最大血流速度(cm/sec),分時静脈血流量(ml/分)を,エコー・パルスドプラ法を用いて測定した.血流量は,平均血流速度と静脈直径を測定し,これらの積より分時静脈血流量を算出した.右下腿腓腹筋内側頭部の組織脱酸素化血液量(以下Deoxy-Hb)は近赤外線分光法(NIRS)により測定を行った.近赤外線光の送受光プローブを装着し,Deoxy-Hbの変化を運動側の下肢静脈血流量の変化の指標とした.測定手順は,安静臥位1 分間の諸項目を測定,坐位では車いすを用い,安静坐位・坐位一側下肢運動を1 分間ずつ測定した.坐位一側下肢運動では右足関節底背屈運動を最大下運動にて1 分間に50 回行った.静脈最大血流速度・分時静脈血流量は実測値を,Deoxy-Hbは1 分間の平均値を用い,安静臥位を100%とし,安静臥位からの変化率として表し,左大腿静脈最大血流速度・血流量,Deoxy-Hbの各測定項目を安静臥位時,安静坐位時,一側下肢運動時の3 群間で比較を行った.統計処理は一元配置分散分析(Tukey法)を用い危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は研究倫理委員会の承諾を得て,全対象者に対し,測定前に本研究の目的と方法を説明し同意を得た.【結果】静脈最大血流速度は,安静臥位26.4 ± 2.3cm/sec,安静坐位12.9 ± 1.0cm/sec,坐位一側下肢運動21.6 ± 1.6cm/secとなり安静坐位と坐位一側下肢運動間に有意な増加を示した.(p<0.01)分時静脈血流量は,安静臥位647.6 ± 98.3ml/分,安静坐位454.6 ± 65.1ml/分,坐位一側下肢運動524.6 ± 164.7ml/分となり,安静坐位と坐位一側下肢運動間に有意な増加を示した.(p<0.05)Deoxy-Hbは,安静臥位を100%と比べ,安静坐位104.4 ± 2.2%,坐位一側下肢運動86.5 ± 2.8%となり,安静坐位と坐位一側下肢運動間に有意な低下を示した.(p<0.01)【考察】一側下肢運動においては,静脈最大血流速度,分時静脈血流量において安静坐位より有意に増加を示した.静脈生理反応に着目し起因要因を考えていく.右足関節底背屈運動により静脈還流が促進され,右大腿静脈は血管径が拡大し圧は上昇する.その後還流により下大静脈の径も拡大し,圧も上昇することで下大静脈と左大腿静脈との径の差と圧較差が生まれる.血流は圧の高い方から低い方へ流れるため,径の細い左大腿静脈の血液が径の太い下大静脈へと流入する.この反応により左大腿静脈の血流量と血流速度が上昇したと考える.運動側のDeoxy-Hbは安静坐位で上昇傾向にあり,坐位一側下肢運動で有意に低下した点については,運動による筋ポンプ作用により静脈還流が促進されたためであると考える.安静坐位は抗重力肢位であり,下肢に血液がうっ滞し易く必然的に静脈環流量が低値を示すが,坐位一側下肢運動時は,安静坐位より優位な増加を示し,車いす坐位においても一側下肢運動が有用な予防手段となり得る可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】臨床現場において急性期脳卒中患者に非麻痺側の下肢運動を指導することは有用なDVT予防策になり得ると思われる.実際の片麻痺患者を対象とした早急な研究を行う予定である.

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© 2013 日本理学療法士協会
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