理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-02
会議情報

セレクション口述発表
二関節筋機能を考慮した筋骨格シミュレーションモデルによる歩行解析
小栢 進也内藤 尚沖田 祐介岩田 晃樋口 由美淵岡 聡田中 正夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】近年、筋骨格シミュレーションモデルを用いた逆運動力学解析(シミュレーション解析)により、運動を解析した研究が多数報告されている。シミュレーション解析は動作測定値から筋活動量を計算するものであり、測定が困難な深部筋の活動や関節圧迫力を推定できる利点から動作解析ツールとして期待されている。しかし、シミュレーションの解析結果が実際の筋活動とどの程度一致しているのかに関しては、十分検討されていないのが現状である。多くのシミュレーション研究では関節モーメントから筋活動を推定するモデルが用いられているが、二関節筋の機能が十分に反映されていないという問題点がある。そこで我々はセグメントの回転モーメントから筋活動を計算する新たなモデルを作成した。本研究では歩行時の筋活動電位とシミュレーションによる推定結果の筋活動時期を比較することで、実際の筋活動をモデルが反映できるか検討した。【方法】被験者は健常若年者4 名(男性2 名、女性2 名)とし、体表の17 点にマーカーを張り付けて床反力計上を歩行した。同時に表面筋電図計を用いて、前脛骨筋、ヒラメ筋、腓腹筋、外側広筋、大腿直筋、半膜様筋の筋活動量を測定した。筋活動量は整流、平滑化し、立脚期の筋活動が最も高い値を100%として正規化した値を用いた。また立脚時間を100%とし、時間を%stance phase(%SP)として表した。シミュレーション解析で用いたモデルは骨盤、片側の大腿骨、下腿骨、足部の4 セグメント、股関節(3 軸)、膝関節(1 軸)、足関節(2 軸)の3 関節で構成した。筋の起始停止および筋・腱長はDelp、筋断面積はHorsman、長さ張力曲線はBuchananらが報告した値を用いて42 筋を作成した。測定データより、関節角度、セグメントの回転モーメント及び関節モーメントを求めた。次に、セグメントの回転モーメントから筋活動量の3 乗和が最小になるように各筋の活動量を求めた。解析結果は立脚期の活動量が最も高い値を100%として正規化した。なお、50%を越える筋活動量を示す時期を活動期とし、筋電図とシミュレーション解析結果の活動時期を比較した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は大阪府立大学研究倫理委員会にて承認を得て実施した。なお、被験者には測定内容を事前に説明し、紙面にて同意を得た。【結果】立脚初期に筋電図およびシミュレーション解析で共に活動を示した筋は、前脛骨筋(筋電図0-11%SP、シミュレーション0-2%SP)、外側広筋(筋電図0-26%SP、シミュレーション9-29%SP)、半膜様筋(筋電図0-16%SP、シミュレーション0-3%SP)、大腿直筋(筋電図2-18%SP、シミュレーション20-31%SP)であり、実際の筋活動と同じ筋が活動するもののシミュレーション解析では活動期が短時間であった。立脚中期から後期にかけて筋電図、シミュレーション解析ともにヒラメ筋(筋電図62-77%SP、シミュレーション63-90%SP)、腓腹筋(筋電図51-75%SP 、シミュレーション55-87%SP)で活動がみられた。立脚後期には筋電図で大腿直筋の活動を認めないが、シミュレーション解析は単時間活動する結果であった(シミュレーション78-89%SP)。【考察】本研究より歩行時の筋電図とシミュレーション解析の活動筋は類似することが明らかとなった。しかし、シミュレーション解析では立脚初期の活動期が短縮していた。立脚初期では床反力の衝撃吸収のために同時収縮が生じるとされている。シミュレーション解析は同時収縮を想定しておらず、筋電図とシミュレーション解析結果が異なったと考えらえる。しかし、同時収縮が生じにくい立脚中期以降ではシミュレーション解析により実際の筋活動を推定できることがわかった。【理学療法学研究としての意義】シミュレーション解析では同時収縮が生じにくい動作であれば運動を解析する手段として有用であると考えられる。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top