理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-03
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一般口述発表
変形性股関節症患者の人工股関節全置換術前後における脊柱アライメントの特徴
工藤 賢治山本 澄子櫻井 愛子四宮 美穂石渡 圭一畔柳 裕二
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抄録

【はじめに、目的】 変形性股関節症(変股症)は股関節の機能低下が原因で起こる側方への過剰な骨盤傾斜や体幹動揺など前額面での歩容異常が特徴的である。変股症はHip-Spine Syndrome(HSS)の代表的疾患でもあり、股関節の影響から脊柱の前額面の動きに制限が生じていることが多い。変股症に対しては人工股関節全置換術(THA)が施工されることが多いが、THA後に股関節機能が改善しても脊柱の動きに制限が残存すると歩容の改善が不十分になる可能性が考えられ、股関節からの影響を排除した脊柱自体の評価が重要となる。また、脊柱の動きは加齢による影響も受けるため、加齢による制限と変股症による制限を区別することも変股症の歩容改善のために重要となる。 今回の目的は、股関節の影響の少ない座位での側方移動動作における脊柱アライメントについて変股症患者の術前(術前群)術後(術後群)と健常高齢者(高齢者群)及び健常若年者(若年者群)間で比較検討し、変股症が脊柱の動きに及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】 対象は変股症患者3名(年齢64±8歳、日本整形外科学会X線病期分類:進行期2例、末期1例、術式:THA)と健常高齢者6名(66±5歳)、健常若年者10名(26±3歳)とした。変股症患者は片側性に有痛症状があり、脊椎及び両下肢に手術の既往がないものとし、同一対象者について術前日、術後約4か月に計測した。 X線撮影は整形外科医の指示のもと診療放射線技師により行われ、静止座位と側方移動時(患側・健側)の3条件における全脊柱を撮影した。撮影肢位は、椅子の上に設置した2台の体重計の境界線上に被験者の仙骨稜を位置させ、股関節内外転・内外旋中間位、股・膝・足関節90°屈曲位で撮影する静止座位、静止座位時の2つの体重計の合計値を基準に、片側の体重がその80%となる位置まで側方移動する80%荷重位とした。側方移動時はできる限り骨盤を動かさず胸郭を側方に平行移動するよう口頭指示した。 撮影したX線画像から、前額面における第1胸椎から第6胸椎を上位胸椎、第7胸椎から第12胸椎を下位胸椎とし、腰椎も含めて脊柱を3分節に分け、それぞれの側屈角度及び側方移動量を計測した。側屈角度は各分節の最上位の椎体の上関節面と最下位の椎体の下関節面の側方傾斜角度の差、側方移動量は両椎体の中心間の側方距離とした。なお、算出データはすべて荷重側方向を正とし、側方移動量は実測値を静止座位の第1・5腰椎両椎体の中心間の鉛直方向距離で除した値で表した。統計処理には多重比較(steel法)を使用し、80%荷重位における各分節の側屈角度と側方移動量について各群の平均値を比較した。【倫理的配慮、説明と同意】 計測に先立ち、全対象者に文書及び口頭にて研究の趣旨を説明し、同意書への署名をもって同意を得た。なお、本研究計画は国際医療福祉大学の倫理審査会の承認を得ている。【結果】 80%荷重位の各分節の側屈角度と側方移動量について若年者群を対照群とし高齢者群、術前群及び術後群との比較を行った。下位胸椎側屈角度は若年者群に比べ他の3群全てで有意に大きかった(全てp<0.05)。腰椎側方移動量は若年者群に比べ高齢者群で有意に大きく(p<0.05)、術前群で有意に小さかった(p<0.05)。下位胸椎側方移動量は若年者群に比べ高齢者群及び術後群で有意に大きかった(ともにp<0.05)。上位胸椎側方移動量は若年者群に比べ他の3群全てで有意に大きかった(全てp<0.05)。その他の項目では有意差はなかった。【考察】 下位胸椎側屈角度は若年者群に比べ他の3群全てで大きかった。80%荷重位では腰椎で荷重側へ側屈し下位胸椎で反対側に立ち直る傾向があり、下位胸椎側屈角度の増大は反対側への立ち直り角度の制限を意味する。変股症の有無ではなく年齢の異なる群間で有意差があったことから立ち直り角度の制限は加齢によるものと思われる。側方移動量については若年者群に比べ高齢者群では腰椎以上で、術後群では下位胸椎以上で、術前群では上位胸椎で側方移動量が大きくなった。このことから変股症によって下位胸椎及び腰椎の側方移動量が制限され、術後において下位胸椎では改善するが腰椎では制限が残存する可能性が示唆された。今回は股関節の影響の少ない座位での検証であり、腰椎での動きの制限が股関節機能改善後も残存する可能性は十分に考えられ、術後の歩容異常の要因となる可能性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 変股症において術後も術前の歩行戦略が残存することは知られており、その戦略を決定する要因が腰椎の側方への動きである可能性は十分に考えられる。今後、股関節機能や歩行分析と合わせて検証することで変股症の歩容改善のための理学療法の一助になると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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