抄録
【はじめに、目的】近年、足部アーチサポートによる疲労軽減効果を謳う機能靴下が流通している。我々は先行研究において機能靴下による即時的なアーチサポート効果を確認している。しかし、機能靴下を長時間装着した際のアーチサポート効果や疲労軽減効果は明らかにされていない。そこで、本研究では足底や下腿後面の疲労の訴えが多いとされる長時間の立ち仕事を行う女性(以下、勤労女性)を対象に、機能靴下によるアーチサポート効果、疲労軽減効果を検証した。【方法】対象は当院に勤務する女性20名(平均40.7±7.7歳)の左右40足とした。尚、明らかな足底腱膜炎の症状を訴えたものは除外した。使用した靴下は機能靴下と通常靴下とし、2日に分けて各靴下を勤務中に装着させた。靴下を装着する順番は無作為に決定した。測定項目は勤務中の歩数、勤務前後の下腿後面疲労感、足底疲労感、下腿内側後面の筋硬度(以下、筋硬度)、足底腱膜起始部の圧痛閾値(以下、圧痛閾値)、片脚立位時の足底圧及び重心動揺とした。疲労感はVAS(visual analogue scale)を使用し0-100で評価した。筋硬度と圧痛閾値の測定には組織硬度計/圧痛計OE-220(伊藤極超短波社製)を使用し3回ずつ測定し平均値を用いた。片脚立位時の足底圧と重心動揺は同時計測し、片脚立位10秒間、左右各3セット行い、測定は裸足にて行った。足底圧はFscanⅡ(ニッタ社製)を用いて測定し、片脚立位のArch Index(以下AI)、Modified Arch Index(以下MAI)を算出した。重心動揺はBalance Master (日本光電社製)を用いて測定し、片脚立位時の総軌跡長、外周面積、矩形面積を算出した。歩数は対応のあるt検定を用いて靴下間の比較検討を行い、他の項目は勤務前後の測定値の差から変化量を求め、同様の比較検討を行った。尚、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】各対象者には本研究を実施するにあたり研究目的や方法を十分に説明し同意を得た上で行った。【結果】各測定項目の変化量は機能靴下、通常靴下の順に下腿後面疲労感は12.50、33.10、足底疲労感は15.60、33.80、筋硬度は0.38、2.86となり、機能靴下が有意に疲労を抑えた。圧痛閾値は-1.26、-0.84となり、有意な差を認めなかった。AIは-0.0016、-0.0022となり、有意な差を認めなかった。MAIは-0.007、0.013となり、機能靴下が有意に足部アーチの低下を抑えた。総軌跡長は-0.32、0.44、矩形面積は-0.08、0.17となり、有意な差を認めなかった。外周面積は-0.25、0.23となり、機能靴下が有意に重心動揺を減少させた。歩数は6924歩、7068歩と有意な差を認めなかった。【考察】長時間の立位や歩行による荷重負荷は足部アーチを低下させ、下腿筋群の筋活動の需要を高め、筋疲労が生じると考えられる。そのため筋力的に不利である女性において足底や下腿後面の疲労を訴えることが多い。本結果では機能靴下の使用は通常より足部アーチの低下を抑え、足部・下腿の疲労を軽減した。背景には機能靴下の繊維張力が、本来維持されるべきアーチサポートに関わる諸機能を補ったためと考えられる。また一般的に、疲労により重心動揺は増加するが、機能靴下使用後には重心動揺は減少した。これも機能靴下による下腿筋群の疲労軽減が影響していると推察される。また当初、我々は足部アーチの低下に伴い、足底腱膜起始部の圧痛が生じると予測していたが、圧痛閾値では靴下間に差を認めなかった。足底疲労の指標として圧痛閾値は不適切であったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】勤労女性を対象に足部アーチサポートを目的とした機能靴下の効果を検証した。機能靴下は勤労女性の愁訴である足底や下腿後面の疲労を抑えることができた。機能靴下はアスリート、スポーツ愛好家のみならず、勤労女性に対しても推奨できる。