理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-51
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ポスター発表
ランニング中における足部回内に影響を及ぼす足部および下腿部の身体的特徴
有賀 一朗神先 秀人大沼 寧引地 雄一百瀬 公人
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抄録

【はじめに、目的】足部回内は足関節背屈,外反,外転の構成要素からなる複合運動であり,ランニング中では立脚初期にピークを迎える.ランニング中における足部回内は,衝撃の緩和や地面との適合性を高める働きがある.その一方で,過度な足部回内は足部や下腿部などに過剰なストレスを与えて痛みや疲労などの症状を引き起こし,スポーツ障害をもたらすと考えられている.スポーツ障害を抱えた患者を評価するには,可動域検査および足部アーチ高などの静的な状態で行う検査や,症状を引き起こしている動作を観察する方法がある.実際には,痛みなどの症状を引き起こす動作の評価が望ましいと考えられるが,足部や下腿部などの動きは比較的少なく,正確に捉えるのは難しい.また,機器を使用した測定は,測定機器が高価であり,準備や測定に長時間を要するなどの欠点がある.その一方で,静的な状態で行う検査は,角度計や定規を用いて簡便に計測でき,臨床でも頻繁に使用されている.さらに,これらの計測値とスポーツ障害との関連性を報告している先行研究は複数あり,ランニング動作時に起こる足部回内に影響を与えている可能性がある.そこで本研究では,可動域検査や足部アーチ高などの静的な状態での計測値とランニング動作時に起こる足部回内(背屈,外反,外転)との関連性を検討した.【方法】対象は運動部に所属し,過去に下肢の痛みなどの症状で医師にスポーツ障害と診断された学生,または同様の症状を呈した学生で,現在は日常的にランニング動作を行っている18 名とした(年齢17.5 ± 2.4 歳).各対象者に対して静的な状態での計測と走行時の動作分析を実施した.静的な状態での計測には,以下に示すスポーツ障害と関連性が高いと報告されている6 項目を計測した.すなわち可動域検査として,足関節背屈,母趾中足趾節間関節背屈,下腿-踵骨角の3 項目を,足部アーチ高測定として,非荷重時と荷重時における床面から舟状骨結節までの高さ,およびその差であるアーチ高変化量の3 項目を対象とした.走行動作の分析は三次元動作解析装置(VICON370)と床反力計(Kistler社製)を備えた約12mの走行路で実施した.採択条件は測定足が床反力計内に接地し,かつ走行速度が3.8 −4.2 m/sになるようなデータとし,5 試行計測した.マーカ貼付位置は三次元動作解析の下肢モデル(Plug-In Gait)に従い,骨盤及び両下肢の15 点に貼付し,三平面上での下肢の運動を測定した.サンプリング周波数は三次元座標データでは本実験機器でサンプリング可能な60 Hzに,床反力データでは1920 Hzに設定し,データを収集した.従属変数には足部回内の構成要素である足関節背屈,外反,外転角度を解析対象とし,それらのピーク値および踵接地から最大値に達するまでの運動範囲の計6 項目とした.独立変数には可動域検査や足部アーチ高などの静的な状態での計測値に,年齢や体重を加えた計8 項目とした.取り込み基準をF値確率 ≦ 0.05,除外基準をF値確率 ≧ 0.10 と設定して,Stepwise法による重回帰分析を行った.統計処理は各試行において任意の3 試行の平均値を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】事前に研究の趣旨や研究に伴うリスクなどを対象者に説明し,書面にて同意を得た.対象者が未成年者である場合はその保護者からも同様な手順で同意を得た.なお,本研究は山形県立保健医療大学及び山形徳洲会病院の倫理委員会の承認を得て行った.【結果】足関節外反角度(運動範囲)を従属変数としたときに選択された独立変数は,非荷重時で測定したアーチ高(B= -2.78, β= -0.90),足関節背屈(B= -0.89, β= -0.64),年齢(B= -0.27, β= -0.45),体重(B= 0.96, β= 0.70)の4 変数であり,y= -2.78x1 -0.89x2 -0.27x3 +0.96x4 +19.2 の回帰式が得られた.Bは非標準化回帰係数,βは標準回帰係数を示している.回帰式の決定係数は0.811 であった.なお,ほかの5 つの変数に関しては,設定した基準を満たす独立変数は得られなかった.【考察】本研究では,可動域検査や足部アーチ高などの静的な状態での計測値とランニング動作時に起こる足部回内(背屈,外反,外転)との関連性を検討した.今回の結果より,アーチ高の低値や足関節背屈の制限,若年齢,体重の増加はランニング中の足関節外反角度の増加をもたらし,スポーツ障害を引き起こす要因であることが推察された.【理学療法学研究としての意義】ランニング中の足部回内を引き起こす身体的特徴を特定できれば,より効果の高い理学療法を提供できる可能性がある.

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© 2013 日本理学療法士協会
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