抄録
【はじめに、目的】急性期病院では、脳卒中患者の歩行予後予測は重要であり、前回大会では発症30日目(以下、30日目)の脳卒中患者の歩行自立可否において、理学療法開始時(以下、初回評価)の下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下、BRS)、座位バランスを示す片側骨盤挙上が予測因子として抽出されたことを報告した。附属4病院において下肢運動麻痺が初回評価で軽度(BRS5以上)の脳卒中患者は、退院時(平均23日)に約83%が歩行を獲得し、より早期に歩行自立に至る者が多い。一方、下肢運動麻痺が初回評価で中等度から重度である者は、歩行獲得に至らない者も多いが、臨床では機能改善を示し、歩行を獲得する者も経験する。特に急性期病院では、下肢運動麻痺が著明である者の予後を初回評価から予測し、目標を設定する上で、どのような特徴を有しているのかは重要であると考えられる。そこで今回、初回評価BRS4以下の脳卒中患者を対象に30日目の歩行予後予測因子を明らかにすることを目的とした。【方法】2010年4月から2012年8月まで本大学附属4病院に入院した初発の脳卒中患者353名中、対象は初回評価のBRSが4以下で、30日以上在院した72名である。選択基準は発症前に歩行自立、除外基準はクモ膜下出血とした。内訳は、男性34名、女性38名、右麻痺33名、左麻痺39名、年齢68.9±15.2歳、脳梗塞47名、脳出血25名で、発症から初回評価までの期間は5.1±2.9日だった。初回評価項目は、Glasgow Coma Scale合計点(以下、GCS)、高次脳機能障害の有無、BRS、前下方へのリーチ(端坐位にて非麻痺側上肢で足部を触る:0測定不可~4両足接触可能)、片側骨盤挙上(端坐位で片側ずつ骨盤を挙上する:0測定不可~3両側離殿3秒以上)、ABMSの項目である寝返り、起居、座位保持(1禁止~6完全自立)、深部感覚の有無とした。30日目の歩行自立度は、歩行に介助が必要な者を歩行介助群(以下、介助群)、監視を含む室内歩行自立以上を歩行自立群(以下、自立群)とした。各項目は附属4病院で運用中の脳卒中評価表より後方視的に調査した。解析は、初回項目に対し自立群、介助群の2群間で、Mann-WhitenyのU検定、またはχ2検定を用い、比較検討を行った。また30日目の歩行自立可否の要因を分析するため、目的変数を30日目の歩行自立可否、説明変数を単変量解析で有意差が認められた項目に対し、変数増加法による多重ロジスティック回帰分析(SPSSver.20)で検討した。有意水準は5%未満とした【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、本大学倫理委員会の承認を得て、「臨床研究に関する倫理指針」に遵守して実施した。【結果】自立群は20名(64.5±16.4歳)、介助群は52名(69.8±14.5歳)であった。自立群、介助群間(自立群中央値/介助群中央値)において、GCS(14.2/11.8)、BRS(3.15/2.14)、寝返り(4.00/2.39)、座位保持(3.55/1.89)、前下方へのリーチ(1.55/0.41)、片側骨盤挙上(1.00/0.85)に有意差が認められた。多重ロジスティック回帰分析の結果、寝返り(オッズ比1.89、95%信頼区間1.32-2.71)において有意差が認められた。なお判別的中率は79.2%であった。【考察】初回評価BRS4以下の者が30日目で歩行自立に至る者は約28%だった。最終評価時期に差はあるが、二木(83年)は入院時全介助者のうちBRS1-2で38%、BRS3で53%が6ヵ月後歩行は自立したと報告があり、30日目以後の更なる改善の可能性が考えられた。BRS4以下で30日以上在院した限局した対象であるが、初回評価の寝返り動作が30日目の歩行自立可否に影響している有意な因子となった。樋口ら(06年)は、発症10日目の座位獲得が、前回大会ではBRSと片側骨盤挙上が、30日目の歩行予後に関連していたが、本研究は初回が発症10日目より早期であること、対象をBRS4以下と限定したこと、監視を含む歩行自立としたことが影響したと考えられた。また発症時に寝返りが自立している者は、6ヵ月後そのほとんどが歩行による移動が可能との二木の報告があり、寝返り動作は下肢運動麻痺だけでなく体幹機能などを必要とする動作であることが30日目の歩行自立の予測に関連することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】脳卒中発症早期は安静度の制限が多い中、初回BRS4以下の者の寝返り動作の評価が30日目の歩行獲得の指標となりうることから、目標設定、プログラム立案の一助となる可能性が考えられた。