抄録
【はじめに、目的】 脳卒中片麻痺患者の歩行自立時期の的確な判断は臨床において極めて重要である.歩行自立の判定基準となる指標は数多く報告されているが,歩行自立には様々な要因が関与するため,臨床現場で判定に苦慮することが多い.近年,歩行能力に影響を及ぼす要因として下肢荷重率(WBR:weight bearing ratio)の重要性を指摘する報告が散見されるようになり,麻痺側WBRと階段昇降などとの関係性も報告されている.しかし,歩行とWBRの関係を調べた先行研究の多くは開脚立位でのWBRを測定したものであり,歩行の立脚相に近いステップ肢位でのWBRと歩行能力との関係を調べた報告は見当たらない.ステップ肢位は開脚立位と足関節の戦略が異なり,歩行の立脚相と近い戦略をとるため,ステップ肢位でのWBRはより鋭敏に歩行能力を反映する可能性がある.そこで本研究の目的は,ステップ肢位でのWBRと歩行自立度との関係性を調べ,更にステップ肢位でのWBRは歩行自立と介助の判断基準として有用であるか否かを明らかにすることである.【方法】 対象は当院回復期病棟に入院した脳卒中患者の中から、検討項目の評価を全て実施可能であった18名(男性8名・女性10名,平均年齢69歳,右片麻痺9名・左片麻痺9名)とした.なお,くも膜下出血患者,テント下病変患者は除外した.WBRの測定は開脚立位,2種類のステップ肢位の計3条件で行った.開始肢位は,開脚立位では2台の体重計上に足幅を10 cm開いた立位とし,ステップ肢位では左右の足部の足角を15度,両踵部の間隔を15cmとして左右の踵足趾間距離が0cmの肢位(ステップ肢位I)と身長から算出した歩幅と前記の中間の肢位(ステップ肢位II)とした.次いで開脚立位では非麻痺側・麻痺側下肢のそれぞれに,ステップ肢位では前方となる下肢に最大限体重を偏移させるよう指示し5秒間安定した保持が可能であった荷重量(kg)を体重(kg)で除し、WBR(%)を求めた. 解析は,従属変数をFIMの歩行得点,独立変数を3条件の非麻痺側・麻痺側WBRとした重回帰分析を行い,歩行自立度と関連性の強いWBRを調べた.更に重回帰分析で選択されたWBRについて,歩行自立・介助の判別能を有するか否か調べるため対象者を歩行自立群(FIM6・7)9名と介助群(FIM1~5)9名の2群に分類し,ROC解析を行った.ROC解析ではROC曲線下面積(AUC:Area Under the Curve)を求め,AUCが0.8以上の項目を有用な項目と判定した.有用と判定された項目に関しては,Youden indexからカットオフ値を算出した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には評価実施時に評価結果の使用方法の趣旨を説明し口頭にて同意を得た.また個人の情報が特定されないよう倫理的な配慮を行った.【結果】 重回帰分析の結果,非麻痺側ステップ肢位I,IIが選択された.これらに対してROC解析を行った結果,非麻痺側ステップ肢位Iは選択されず(AUC 0.5),非麻痺側ステップ肢位IIが有用な予測能を持つ項目として選択された(AUC 0.8).カットオフ値は,非麻痺側WBR 56%(感度77%,特異度77%)であった.【考察】 本研究から非麻痺側ステップ肢位WBRはその他条件のWBRよりも強く歩行自立度と関係することが示唆され,特に非麻痺側下肢を半歩前に出したステップ肢位WBRは,歩行の自立と介助を判別する有効な項目となりうる可能性が示唆された.ステップ肢位は開脚立位と比較し支持基底面が狭い.また姿勢保持の際,開脚立位は前後方向へ重心の軌跡を辿るのに対し,ステップ肢位は左右方向への軌跡を辿り,より高度なバランス能力が必要となる.開脚立位に比べ,ステップ立位は歩行の立脚相での足関節と類似した戦略をとるため歩行自立度の予測に,より有用な因子として選択されたと考えられる.一方,開脚WBRを調べた先行研究から,歩行には非麻痺側よりも麻痺側WBRが重要であることが明らかにされているが,本研究ではステップ肢位において麻痺側よりも非麻痺側WBRの方が歩行自立度を反映した.これは開脚立位とステップ肢位の支持基底面の違いが影響したと考えられ,開脚WBRは麻痺側下肢の支持性を含めたバランス能力の指標となるとされているが,ステップ肢位では開脚肢位と比べて求められるバランス能力が非常に高くなるため,今回の対象者では総じて低値となり,歩行自立度と関連しなかったと考えられる.今後更なる検証が必要である.【理学療法学研究としての意義】 今回の研究では歩行自立度を決定する因子として,歩行に対して開脚立位よりも課題特異的であるステップ肢位の有用性が示唆された.