理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-P-13
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ポスター発表
半側空間無視を呈する患者に対する自己教示法の検討
―書字動作を用いた介入―
森山 喜一郎丸岩 光宮原 智子
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抄録
【はじめに、目的】脳損傷により高次脳機能障害を有する場合、身体機能のみでなく認知機能が日常生活に大きく影響する。特に半側空間無視(以下USN)を有する場合、身体機能面には問題がないが、左側に対しての注意が困難となり、自力で外出できないなどの問題が生じる。USNの患者に対しては様々な介入方法があるが、単に声掛けなどにより左へ向くことを意識させるのではなく、具体的な課題を通して介入する方法が有効といわれている。今回、脳内出血後遺症により著明なUSNを呈した症例に対し、日常生活で用いることの多い書字を課題として介入した。その際脱字や左側への注意を改善する為に自己教示法を用いた。結果、脱字が減少し、左側への意識付けが可能となったので報告する。【方法】1.対象者 50歳代、男性、大工作業員、独身。脳内出血発症3年10ヶ月後に当院外来で介入を開始した。Br-s右上肢5、手指5、下肢5、身体機能面は特に問題はない状態であるが、著明なUSNを認めた。棚を作る際、棚の右端から左端をメジャーで計測した後に同じ寸法の資材を準備しようとするも寸法の間違いに気づかない、など以前は得意であった大工作業上での問題がみられた。また、日常生活では左側から書字をする通帳番号、書類や文章の書き写しなど特に書字での問題が多く見られていた。本人からも、特に書字が難しいとの訴えがあった。神経心理学的評価結果は、WAIS-3にてVIQ59、PIQ60、FIQ64、BIT行動性無視検査は通常検査124点であり、カットオフ点以下は、線分、文字、星印、模写抹消であった。行動検査Aでは74点で平均より上まわっていた。日本語版Self Regulation Skills Interview(SRSI、日本語版自己統制能力質問紙)1)は問題の気づき8点、変化への動機付け10点、戦略の気づき8点と気づきの低下がみられていた。2.介入方法 今回文章を模写する課題を設定し、代償戦略として左手指を文字に添えながら模写することを試みた。300文字の文章を2種類用意し、毎回交互に使用した。自己教示法として、文章を書字する前に「左手を文章に添えて書く。」と患者自身に述べてもらった後で文章の書字を開始した。自己教示法の効果を検証する為、シングルケース実験法を用い、自己教示法を用いない介入(以下A期)と自己教示法を用いての介入(以下B期)を10回ずつ計40回実施した(A1期、B1期、A2期、B2期)。自己教示法を用いない介入では、左手を添えるよう促した後、書字を開始した。効果判定として2種類の300文字の中から脱字数をカウントし、A期とB期の差を比較した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究に当たり、本人及び家族に事前に研究協力の同意を得た。【結果】A1期のうち2回は、注意の持続が困難となり300文字を最後まで模写することが困難であった。その為、A1期8回、B1期10回、A2期10回、B2期10回にて分析を行った。フリードマン検定、ボンフェローニ検定の結果、A1とB1期、B1とA2期、B2期とA2期すべてにおいて脱字数に差が見られ、自己教示法を用いた際に脱字数が減少していた。A1期からB1期へ移行した際は初回に脱字数が大幅に減少し、またB1期からA2 期へ移行した際にはA2期の2回目より脱字数が再度増加していた。さらにA2期からB2期へ移行した際には、初回より脱字数が減少していた。【考察】今回、著明なUSNを有する患者に対し、文章の書き写しを通して左側への意識付けを図った。自己教示法を用いない介入と、自己教示法を用いた介入で比較を行った結果、自己教示法を用いた介入時に脱字が減少し、左側への注意が向上した。これは、「左手を文章に添えて書く。」と自ら言語化することで、文章に対しての注意、左側への意識付けの行動を自ら強化でき、さらに注意機能にも効果があったのではないかと考える。B1期、B2期共に1回目の時点で脱字数が減少したことは、自己教示法の即時効果を示していると思われる。また、20回目より脱字数が再度増加したことは、自己教示法の効果が減少したことを示していると思われる。一方自己教示法は、段階付けた使用法が提唱されている。本症例に対しても今後段階付けて自己教示法を継続し、他の日常生活活動においても左側への注意を改善する必要があると思われた。【理学療法学研究としての意義】USNを有する患者に対し理学療法として介入する場合、機能面のみではなく、生活上の具体的な課題を用いること、さらに自己教示法を用いることで、左側への注意が改善できる可能性が示唆されたと考える。1)宮原智子、清水一 、花岡秀明、山根伸吾、川原薫、森山喜一郎他:脳損傷者に対するself-awareness(自己の気づき)の評価法「日本語版SRSI(Self- Regulation Skills Interview : 自己統制能力質問紙)」の作成および信頼性・妥当性の 検討. 総合リハビリテーション 40(8)、1117-1126、 2012、8.
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© 2013 日本理学療法士協会
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