抄録
【目的】変形性股関節症(以下、股OA)や人工股関節全置換術(以下、THA)施行患者は、脊椎や骨盤のアライメント異常、脚長差による代償的な歩行パターンが観察される。我々は以前、新たに開発された無線動作角度計システムを用いて3軸方向の動作角度と加速度の算出を行い、片側股OA患者を対象にTHA術前後の歩行時の骨盤運動を比較検討した。その結果、前額面での上下方回旋の骨盤運動が術前には増加しているが、術後には健常人と有意差のないレベルまで減少することが分かった。今回の研究では、上下方回旋の骨盤運動が減少した要因を分析する目的で、脚長差との関連を検討した。【方法】対象は片側股OA患者12名(男性2名、女性10名:年齢68.3±8.4歳、身長155.5±7.9cm、体重55.5±7.1kg、BMI22.9±2.3)24関節とした。歩行時の骨盤運動角度の計測は、3軸加速度センサと3軸角速度センサ内蔵の無線動作角度計システム(MicroStone社製、MVP‐RF8を2個、MVP- DA2-S)を用いた。センサの一つは基軸を第3腰椎部とし、もう一つは移動軸を上前腸骨棘とし、各々表皮にテープで貼付した。測定時期は術前、術後3週、術後5週、歩行環境は独歩、自由スピードとし、10m歩行を術側、非術側各々2回計測した。測定データは10m歩行の始動時数秒を除外した5秒間の波形を使い、無線動作角度解析ウェアからCSVファイルに変換されたデータをエクセルで解析し、上下方回旋の角度をみた。脚長差は術前、術後、単純X線画像より小転子から左右の涙根下端を結んだ線までの距離を計測し、術側と非術側の差とした。術前、術後の脚長差と術前、術後3週、術後5週の上下方回旋の角度との関係を検討し、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】対象者12名には、倫理的配慮として、本研究の趣旨及び実験内容について口頭及び文章で説明し、自由意志による参加の同意を文書により得た。【結果】脚長差の平均は、術前-11.3±7.0mm(最大値-25.0mm)、術後+2.1±4.1mm(最大値+7.4mm)だった。骨盤の上下方回旋の平均角度は、術側、術前7.8±3.2°、術後3週4.7±2.3°、術後5週5.2±2.1°、非術側、術前8.0±2.7°、術後3週5.6±2.0°、術後5週4.6±2.2°であり、術側においては術前と術後3週、術前と術後5週に有意差を認め、非術側においては、術前と術後3週、術前と術後5週、術後3週と術後5週に有意差を認めた。術前・術後の脚長差と非術側の術前・術後5週の上下方回旋角度において有意な負の相関がみられた(r=-0.41、p<0.05)。術側においても、脚長差が改善したことで上下方回旋角度が減少する負の相関がみられたが、有意差はみられなかった。【考察】今回の研究結果より、脚長差の改善と術後の上下方回旋角度の減少において、非術側の術前・術後5週の上下方回旋角度と脚長差に有意な負の相関関係を認め、術側でもその傾向はみられたが有意差は認められなかった。同時に行った我々の研究において、同様に筋力と上下方回旋角度の関係を調べたところ、非術側の上下方回旋角度と術側外転筋力との間に更に強い負の相関関係を認めた(r=-0.47、p<0.01)。このことから、術前存在した2cm前後の脚長差の影響は、骨盤運動に関与する要因の一つと考えられるが、主たる要因とは言い難い。術後に改善した筋力や股関節可動域、疼痛など他の要因が伴って、上下方回旋の骨盤での代償が減少したと示唆され、今後、更に対象数を増やし、多角的に検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】我々が以前行った研究において、歩行時、股OA患者のTHA術前後の上下方回旋の骨盤運動が有意に減少することがわかった。我々はこの結果を術前の脚長差による代償運動とし、術後脚長差が改善されたことが大きな起因になっていると仮定し、その関係をみた。その結果、術前存在した2cm前後の脚長差が改善したことで上下方回旋の骨盤運動が減少する傾向はみられたが、それが主な要因とは言い難く、筋力や股関節可動域、疼痛など他に要因があるものと考えた。