理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-O-06
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一般口述発表
脳性麻痺児のアキレス腱延長術後の装具離脱に関わる因子
根本 慶子北村 憲一鈴木 暁稲員 恵美滝川 一晴
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抄録

【はじめに、目的】 当院では脳性麻痺(以下CP)の尖足に対する整形外科手術を行っており、術後には全例が装具装着を含めた後療法を行っている。歩行時の踵接地を認めても、下腿三頭筋の筋力低下が遷延したり収縮様式の再学習が困難であるなど、装具離脱に至れない症例が存在する。麻痺性尖足に対するアキレス腱延長術と装具離脱に関連する文献は、国内外で散見される程度である。尖足に対する術後予後予想の一助となることを目指し、当院における過去7年間の整形外科治療とその後の装具離脱の関連要素について調査したので報告する。【方法】 歩容改善を目的に2005年から2011年の7年間に当院で整形外科手術とPTを行った移動可能なCP児30症例43脚を対象とした。術後平均経過期間は2.5年(0.6‐7.0年)であった。1)手術年齢、2)CPのタイプ、3)術前背屈角度、4)術前装具療法の有無、5)手術方法について調べた。術後に装具を離脱できた症例を装具離脱群、装具を継続している症例(再度装着を含む)を装具装着群として、それぞれの調査項目内で脚数を比較した。装具離脱の判断は、立脚期の反張膝や早期の踵離地、遊脚期の下垂足が認められないこととした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は後ろ向きカルテ調査であり、研究対象者の情報は医療記録から個人が特定できないように匿名化しプライバシーに配慮した。【結果】 調査項目内での装具離脱の有無を装具離脱群/装具装着群としてそれぞれ脚数を表示した。全症例では30脚/13脚であった。1)手術年齢:未就学児8脚/5脚、小学校低学年14脚/7脚、高学年~高校生8脚/1脚、2)手術方法:アキレス腱Z延長術(以下Z延長)15脚/8脚、Baker法13脚/5脚、Vulpius法2脚/0脚、3)CPタイプ:両麻痺20脚/10脚、片麻痺9脚/3脚、単麻痺1脚/0脚、4)術前装具療法の有無:装具療法あり14脚/6脚、なし16脚/7脚、5)術前背屈角度(膝屈曲位):0度以上16脚/5脚、-1~-10度6脚/3脚、-11~-20度5脚/4脚、-21度以下3脚/1脚。 各区分で装具離脱群と装着群の大きな差は認めなかった。各調査項目でさらに手術方法別に区分すると、未就学児でZ延長を行った例で3脚/4脚、両麻痺でZ延長を行った例で8脚/8脚と装具離脱に至らない例が多かった。 Z延長の装具装着群8脚のCPタイプは全て両麻痺であり、3名6脚が両側Z延長、2脚は対側にBaker術を行っていた。同じく両麻痺でZ延長を行い離脱できた症例は2名4脚であった。またBaker法で装具を離脱できていない5脚については2脚が両麻痺、3脚が片麻痺であった。【考察】 侵襲の大きいZ延長で装具装着群が多くなると予想していたが、結果からは手術方法よりもCPタイプによる装具離脱の可否への影響が大きかった。特に両麻痺児ではZ延長後にクラウチング歩行が残存する例を多く認めた。Baker法でも装具を離脱できない例が5脚存在したが、両麻痺児の1脚は対側にZ延長を行い両側ともに装具装着、もう1脚は対側にBaker法を行い対側は離脱しており、2脚ともに下腿三頭筋の機能が問題となり離脱が困難であった。 CP児では腓腹筋の羽状角が正常発達児よりも大きく、この構造的な変化が出力低下の一因となっている可能性が報告されている。このためZ延長後ではアキレス腱の短縮が改善しても、下腿三頭筋の筋力低下が遷延し筋出力が改善されなければ、足部を含めた下肢全体の歩行機能の改善は困難である。さらにBaker法でも体幹筋の機能不全やハムストリングスの過緊張により遊脚時のリリースが困難であるなど、両麻痺児特有の問題点により侵襲が少ない手術法であっても装具離脱が困難であったと考える。 Baker法で装具を離脱できていない片麻痺の3脚では、2脚は足関節背屈筋がMMT1で遊脚時の下垂足が問題となりプラスチック装具を装着している症例、もう1脚は一度離脱できたが膝の動揺が強くなり再度装着を開始した症例であり、手術による腓腹筋への侵襲よりも他の部位の問題で装具離脱が困難であった。 現在装具を離脱し足底板療法を行っている症例の中には、PTの継続が困難であったり、夜間装具装着のコンプライアンスが不良であるなど、後療法が不十分であるために手術後の集中的な入院治療によって一度は回復した機能が低下している例も存在する。これらの症例は尖足が再発しつつあるが、本人の拒否により再度の装具装着ができていない。 また客観的指標として装具離脱に関する因子の一つである運動機能を評価する必要があるため、本年度よりGMFMを用いた評価を開始しており、GMFMと装具離脱の関連についても今後研究していきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果から、CP児の尖足に対する整形外科術後の装具離脱に関連する因子として、手術年齢や術前装具療法の有無、術前背屈角度よりも、CPのタイプの影響が最も大きかった。今後のCP児の術後装具療法の予後予測の一助となる可能性を示した。

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© 2013 日本理学療法士協会
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