抄録
【目的】我々は先行研究において、1500msを基本間隔とした周期的な聴覚刺激を呈示している途中で、その刺激のリズムが変わったと意識的には認識できない1425ms(基本間隔を5%短縮)の間隔に変化させても、筋電図反応時間(Electromyographic Reaction Time,以下EMG-RT)は遅延しないことを明らかにした。一方で、明らかにリズムが変わったことを認識できる1200ms(基本間隔を20%短縮)の間隔に変化させると、EMG-RTは有意に遅延した。このことから、基本間隔の数10ms手前には予測の範疇に収まるある程度の時間の幅が存在し、周期的なリズムの予測機構が機能することで円滑な反応運動は維持されると考察した。本研究では基本間隔を5%および20%延長した間隔に変化させることで、リズムが延長する変化が予測に基づく反応運動に及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象は利き足が右の健常者13 名(男性10 名、女性3 名、平均年齢27.4 ± 3.9 歳)とした。実験機器はテレメトリー筋電計MQ8(キッセイコムテック株式会社)を使用した。聴覚刺激はSoundTrigger2Plus(キッセイコムテック株式会社)で設定した。聴覚刺激の刺激条件は刺激周波数を900Hzとし、刺激強度は対象者が明瞭に聴き取れる適切な大きさに設定した。対象者は端座位で聴覚刺激を合図にできるだけ素早く右足関節を背屈する反応課題を実施し、右前脛骨筋より筋電図を記録した。1500msの間隔の周期的な聴覚刺激を呈示するものを条件1 とし、条件1 のうち最後の刺激間隔のみを1575ms(5%延長)とするものを条件2、1800ms(20%延長)とするものを条件3 とした。聴覚刺激は1 試行につき6 〜10 回連続的に呈示した。試行ごとにこの刺激回数はランダムに設定し、対象者が試行を繰り返しても何回目の刺激で異なる刺激間隔が挿入されるかを予測できないようにした。各条件は15 試行ずつ、合計45 試行をランダムに実施した。統計処理は一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用い、各条件における最後の聴覚刺激に対するEMG-RTを比較した。有意水準は5%に設定し統計学的な有意差を判定した。【説明と同意】対象者に本研究の目的と方法について書面と口頭で説明し、同意を得た。【結果】EMG-RTは条件1 が137.7 ± 20.8ms、条件2 が137.8 ± 23.9ms、条件3 が179.5 ± 27.7msであった。統計処理の結果、条件3 のEMG-RTは条件1 および条件2 と比較して有意に遅延した(p<0.01)。条件1 と条件2 のEMG-RTに有意差は認められなかった。【考察】条件2 および条件3 は、最初に1500ms間隔の刺激が少なくとも4 回呈示されたのちに1575msまたは1800msの間隔の刺激間隔が変化する。藤原らは周期的な刺激に対する反応課題に関して、最初の3 回の刺激でEMG-RTが短縮し、4 回目以降は予測に基づく反応が可能になると報告している。条件2、3 ともに最初の周期的な刺激の呈示により、繰り返される刺激の入力を予測していたであろう。しかし、条件2 ではEMG-RTが遅延しなかったことから、この予測は1500msの間隔を寸分の狂いなく予測していたのではないと考えられる。周期的なリズムの予測が可能な範囲は、先行研究および本課題で用いた1500ms間隔であれば75ms手前だけでなく、75ms延長した範囲にも及んでいると考えた。条件2 における基本間隔との時間の差である75msの時間の延長はこの予測が可能な時間の幅の範囲内に含まれていたと考えた。このことから、基本間隔の5%以内の周期性の変化に関しては周期的なリズムの予測機構が機能し、運動の準備状態が維持されると考えた。条件3 は基本間隔との時間の差が300msであり、この時間の差は予測が可能な時間の幅の範囲を超えるものであり、フェイント刺激となったと考える。河辺らは、予測を生じさせるような刺激を与えながら途中でフェイント刺激を与えると反応時間が遅延すると報告している。このことから、周期性の変化が20%にまで大きくなると、周期的なリズムの予測が裏切られ、運動の準備状態が破綻すると考えた。【理学療法学研究としての意義】周期的なリズムを用いたリズミカルな動作を誘導する際、基本間隔の5%以内のリズムの変化は動作の周期性を乱さないことが示唆された。今後はセラピストがある一定のリズムで手拍子を打つように心がけたときの手拍子の間隔を用いてEMG-RTを比較し、セラピストが呈示する手拍子のリズムと反応動作との関連について検討したい。