理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-20
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ポスター発表
加齢に伴う多関節筋の筋機能の変化
笠原 敏史齋藤 展士寒川 美奈高橋 優美
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キーワード: 姿勢制御, 加齢, 多関節筋
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抄録
【目的】高齢患者においては運動障害だけでなく、加齢に伴う感覚運動機能の低下により転倒リスクが高まる。我が国では少なくとも1 年に1 度転倒する高齢者が20%以上にのぼり(Hagino)、そのうち10-15%が重大な傷害を引き起す(Nevittら)。理学療法において運動障害のみならず加齢に伴う転倒のメカニズムを理解することは運動療法の方策にも役立つ。高齢者の姿勢と運動制御の特徴は運動開始時間に対する遅い反応時間によって定義されるような慎重な運動戦略を取り入れる(Trukerら)。また、Linらは高齢者の姿勢制御は若年者と比べてより固定化した股関節戦略でしか行えないことを指摘している。姿勢制御は単関節筋群と多関節群の2 つの筋群の働きによって行われている。単関節筋は単純に要求された関節運動のための力を生成し、多関節筋は複数の関節にわたるネットモーメントの配分を適正化する(van Ingen Schenauら)。高齢者の多関節筋は若年者に比べて顕著に短縮がみられ、多関節筋の短縮や機能低下は運動成績の低下や運動障害の再発と関連していることが報告されている。これらのことから、多関節筋群の加齢による変化が姿勢戦略や転倒に影響を及ぼすことが予想される。今回の研究は高齢者の姿勢戦略の変化と多関節筋群の活動の変化について若年者と比較した。【方法】対象は健常若年男女12 名(男性 5 名、女性 7 名。平均20.8 歳)、健常男性高齢者13 名(平均68.8 歳)。年齢を除き、身長と体重に差はなかった。被験者は裸足で床反力計に立ち、上肢は胸部の前でクロスさせた。運動課題は前後方向への最大足圧中心(COP)移動とした。後方への十分なCOP移動量を確保するために、COPの位置が両内果の中点から前方 5 cmに位置するよう指示し、これを開始位置とした。その後、被験者は爪先や踵を浮かせることなく、前方又は後方にCOP を最大限移動し、その姿勢を保持するよう要求した。この時、下肢関節運動に特別な運動や制約を設けなかった。3 次元動作解析より下肢関節角度,表面筋電計より姿勢筋の筋活動を記録した。測定筋はいずれも右側の腹直筋,脊柱起立筋,大腿直筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋とした。データ解析はCOP最大移動後の安定保持している 500 ms を視覚的に判断し,この間の各関節角度,COP 移動量,筋活動量を用いた。各データはMatlabを用いて平滑化処理を行った。COP 移動量は各被験者の足の長さで標準化し、年齢差を t 検定,各測定項目間の関係についてピアソンの相関係数を用い,5% 未満を有意とした。【説明と同意】本研究は本学に設置されている倫理委員会の承認を得(承認11-03)、被検者に書面をもって十分な説明を行い、同意を得た者が実験に参加した。【結果】前方COP移動量は若年者群28.9 ± 4.6 %、高齢群25.4 ± 3.0 %であった。後方COP移動量は若年者群26.8 ± 4.1 %、高齢群22.8 ± 3.4 %であった。両方向とも年齢差を認め、さらに、高齢群者では後方COP移動量が前方COP移動量に比べ有意に小さかった。若年者のCOP移動と各関節の間に有意な相関関係はみられず、高齢者群の股関節(r = 0.75)及び膝関節(r = - 0.37)とCOP移動に有意な相関関係を持ち、高齢者群は股関節を主とした多関節姿勢戦略を用いていた。若年者群は腹直筋と大腿二頭筋を除く筋群とCOP移動と有意な相関を持ち、高齢者群では全ての筋活動がCOP移動と有意な相関を持っていた。若年群に比べ、高齢者群の下肢筋は他の筋と有意な相関を持ち、特に、大腿直筋は腹直筋と前脛骨筋、大腿二頭筋は脊柱起立筋と腓腹筋と複数の筋の活動と有意な相関関係を持っていた。【考察】今回の高齢者のCOP移動量は若年者に比べ有意に低下していたが、過去の報告(約30 %の低下)に比べ低下率は小さかった。今回の高齢者群の平均年齢は他の研究報告の高齢者群の平均年齢と比べて若く、前期高齢者と後期高齢者のバランス能力への加齢の影響の大きさによるものと考える。Linらの報告と同じく、本研究の若年者群の姿勢制御は一定の傾向を示さなかった。若年者群の場合、姿勢制御において複数の戦略を状況に合わせて選択している可能性があり、冗長性をもっているものと考えられる。一方、高齢者群は主として股関節を用い、膝関節を含めたマルチ・セグメントな制御戦略(Van Ooteghemら)を用いていた。また、高齢者群の大腿直筋と大腿二頭筋筋が近位と遠位の筋と有意な相関関係を持っていたことは、これらの筋がマルチ・セグメントの姿勢制御において重要な役割を果たしていると考える。【理学療法研究としての意義】高齢化する患者の理学療法において運動障害に加えて、加齢に伴う機能低下も考慮する必要がある。高齢患者の転倒のメカニズムは複雑であるが、本研究により高齢者は複数の関節を用いて姿勢を制御することが実証され、大腿直筋と大腿二頭筋はその重要な役割を担うことが明らかとなった。
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© 2013 日本理学療法士協会
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