抄録
【はじめに、目的】2010年度がん患者リハビリテーション料が新設された。その目的は、がんの治療により生じる二次的障害を予防し、運動機能や生活機能の低下予防・改善することとされている。現在、外科の周術期において早期離床が様々な合併症や二次的障害の予防に繋がるという報告は多く、近年がん患者に対するリハビリが注目されている。原らは、周術期消化器がん開腹術後患者において、周術期の在院日数は短いが、その期間に運動機能を維持向上させることは自宅復帰後のQOLに好影響をもたらすと報告している。小林らは、胃がんに対する腹腔鏡下手術後と開腹術後を比較した場合、術後から3ヶ月間における体力の機能回復及び術後疼痛の軽減は腹腔鏡下手術後の方が良好であったと報告している。しかし、低侵襲で術後の疼痛が軽いといわれる腹腔鏡下手術施行後におけるがん患者の身体機能について、報告は少ないのが現状である。今回我々は、消化器系がんにて腹腔鏡下手術を施行した患者の手術前後の運動機能及び運動習慣について調査し、リハビリの必要性について検討したので報告する。【方法】対象は2012年5月から10月までに当院にて消化器系腹腔鏡下外科手術を施行され、既往歴に呼吸器疾患や心疾患が無い39名(平均年齢67.0±9.8 )、 男性15名(平均年齢66.5±8.3)、女性24名(平均年齢67.3±10.8歳)とした。また、術前ADLがBarthel lndex100点でかつ運動機能障害や認知機能障害が認められないものとした。対象者39名のうち、術後翌日に離床困難(血圧低下、頻脈、眩暈等)で離床に注意を要したが、歩行自立しリハビリ終了となった15名をA群(リハビリ施行日数8.3±5.3日)、術後著変無く退院に至ったリハビリ終了者24名をB群(リハビリ施行日数6.5±2.5日)とした。運動機能指標は運動耐容能の評価である6分間歩行距離(6-Minute Walk Distance; 以下6MWD)を使用した。運動習慣についてはアンケート調査を実施した。運動習慣は、週2回以上、30分以上の運動を1年以上継続している者で運動習慣がある者をa、運動習慣が無い者をbとし、Aa群8名、Ba群7名、Ab群7名、Bb群17名とした。今回、4群それぞれの術前及びリハビリ終了時の6MWD歩行距離を比較・検討した。なお、統計は対応のあるT検定を用い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究を行う上で対象患者に対して説明し同意を得た上で実施した。【結果】今回、リハビリ施行日数についてA群及びB群は有意差を認めなかった。6MWDについて手術前とリハビリ終了時の歩行距離は運動習慣のあったAa群(術前378.8±38.5m、終了時334.4±60.7m)及びBa群(術前406.4±68.4m、終了時345.7±74.8m)ともに有意差を認めなかった。運動習慣の無かったBb群(術前331.8±75.1m、終了時291.2±68.2m)は有意差を認め(P<0.05)、Ab群(術前368.6±76.5m、終了時305.0±59.1m)は有意差を認めない(P=0.07)が手術前後で距離に違いがある傾向がみられた。【考察】今回の結果から、運動習慣のあるものは有意差がみられないことから、リハビリ終了時に術前歩行能力と同様にまで回復しており、運動習慣の無いものは術前歩行能力に達していないと考えられる。茨城県健康科学センターの調査・報告によると、運動習慣のある者は運動習慣のないものに比べ、健康指標だけでなく、体力的に優れ日常生活の活動能力が高いと報告している。今回の結果から、運動習慣があるものは運動の効果を理解し、二次的な障害予防を目的に歩行を施行することが出来たのではないかと考える。しかし、4群ともに術後平均歩行距離は400m未満であった。6MWDにおいて400m未満の者は屋内歩行の自立を意味し、400m以上が屋外歩行自立の目安となる。今回の結果において、リハビリ終了時の歩行能力は自立レベルであるが、屋外等での実用的な活動量を得られているとは言い難い。また、退院後は通院にて化学療法等を受ける療養者について、米国がん協会は抗がん剤や放射線治療中もできるだけ運動を維持することが重要であると報告している。よって、低侵襲である腹腔鏡下手術後でも退院後も機能低下予防のため継続出来る退院時指導を施行することが必要であり重要であると考える。しかし、外科手術の患者は前日入院となることが多く、リハビリは術後介入が中心である。今後、運動習慣が無い者に対しどのように退院時指導を施行するかが課題であると考える。【理学療法学研究としての意義】外科周術期患に対し理学療法の介入及び退院時指導を実施することは機能低下予防及び改善の為に重要であり、本研究は外科周術期患者の理学療法介入の際の一助となると考えられる。