理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-P-22
会議情報

ポスター発表
破傷風患者の理学療法
症例報告
前野 里恵石田 由佳今村 純子横井 剛
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】破傷風は開口・嚥下障害,強直性痙攣,呼吸筋麻痺や循環動態不安定などの症状が出現する感染症のため,その理学療法は症状に合わせて二次的障害の予防に努めることが目的となる.今回,発症早期より理学療法を開始し,約2ヶ月後に自宅退院に至った症例について報告する.【方法】63歳男性 診断名:破傷風 既往歴;糖尿病 第1足趾糖尿病性壊疽 発症前より両側手指デユピユイトラン拘縮,両足関節背屈制限と感覚障害あり【倫理的配慮】本学会に発表するにあたり,書面にて説明し,同意を得て署名を頂いた.【結果】2012年2月開口嚥下障害で発症 某病院受診 発症第2病日 当院感染症内科救急搬送 左足糖尿病性壊疽からの破傷風菌感染が疑われ,徐々に増悪.第3病日左第1趾切断術 デブリードマン施行 集中治療管理下にて光・音刺激回避,挿管人工呼吸器管理SIMVモード 意識状態:鎮静Japan Coma Scale(JCS)300 全身痙攣出現 後弓反張 咬筋強直 第5病日リハビリテーション科併診 病棟理学療法開始 初回評価 鎮静管理 安静時心拍数77/分 酸素飽和度96% 血圧106/41mmHg 発熱37~38度,一過性の心拍数130/分の頻脈や収縮期血圧160mmHgの上昇など循環動態不安定 体位変換や少しの刺激で頻回に痙攣が誘発され全身へ波及 開口制限上下中切歯間距離0.5cm 筋緊張亢進と関節可動域の制限著しい FIM 18点 他動的関節可動域練習と呼吸練習開始 第9病日痙攣軽減 鎮静解除 抜管呼吸器離脱 第10病日傾眠JCS2桁 時々意思疎通可能 発熱継続 全身の関節可動域制限と疼痛著明 MMT上肢2~3 下肢0~1レベル 開口運動と介助起座位練習開始 第16病日意識清明 意思疎通可能 練習意欲あり 嚥下食開始 第18病日介助立位練習開始 疲労感強い 摂食前に開口練習自主練習可 第19病日一般病棟転出 酸素投与終了 第24病日全身痛や疲労感継続 病棟歩行器歩行練習開始 第25病日リハビリ室移行 平行棒内歩行練習開始 第32病日左第1趾切断部の縫合不全に対して持続的密閉療法開始 開口距離約3cm 杖歩行安定 第43病日左第1趾切断部植皮形成術 形成外科医師の指示によりベッド上安静 理学療法5日間休止 第47病日理学療法再開 自立歩行可能 第57病日理学療法終了 最終評価 開口距離4cm 体幹と両側下肢の関節可動域制限残存 胡座や長座位保持不可 MMT四肢4レベル 歩行300m 階段1足1段 近位監視 FIM運動項目72 認知項目34合計106点 第58病日自宅退院 発症7ヶ月後,T字杖歩行で形成外科外来通院 開口距離4cm.理学療法開始時は関節運動,筋肉の伸張や疼痛で痙攣が誘発され,強直性へ進行し,心拍数の増加に繋がることがあった.股関節屈曲20度で背部がベッドから持ち上がるほどの硬直状態となっており,すでに全身の可動域制限や筋肉の短縮が生じ,容易には関節可動域練習を行うことは出来なかった.しかし,関節運動が行える部位,関節内運動,ゆっくり時間をかけた愛護的な方法などを探りながら可能な限り行なった.また,第9病日からの1週間は38度台の発熱と安静時120/分前後の心拍数が継続し,その都度中止や中断,練習時間の変更を余儀なくされた.このような経過で,理学療法の目標は循環動態に注意しリスク管理を行いながら,関節可動域の拡大と拘縮予防,呼吸器離脱を掲げた.人工呼吸器は順調に離脱できたが,開口制限は口腔ケア,痰の吸引や会話に影響を与えていたために開口練習を追加した.練習では舌圧子を下側切歯に当て,他動的に押し下げ拡大を図った.看護師と症例自身の協力も加わり,嚥下食摂取前から行うことで効率的な摂食に結びついた.意識の改善と全身状態が安定すると,理学療法の目標は歩行による日常生活活動の自立に再設定した.しかし,今度は全身の疼痛が関節運動や筋力向上練習の阻害因子となった.そこで練習前の鎮痛剤投与や運動回数の制限を行って対処した.身体機能では座位の保持は背筋の短縮により困難を極め,立位は足関節背屈制限により後方重心であったが,徐々に筋力の回復とともに実用的歩行を獲得し日常生活活動に結びついた.第43病日,創部の縫合不全で一時的に休止したが,機能の低下をすることなく,順調に実用的な歩行を獲得した.【考察】1.痙攣や循環動態が不安定な状態でも,拘縮を最小限に抑えるために,リスク管理下で関節可動域練習を実施する必要がある.2.全身の疼痛に対しては,練習開始前の一時的な鎮痛剤の投与も有用と示唆され,薬物療法の調整には看護師との連携は欠かせなかった.3.開口制限は摂食,口腔ケア,痰の吸引や会話に影響するために,呼吸器離脱後,ただちに開口練習が望ましい.4.実用的な歩行を獲得したのは,早期から継続的且つ有効な理学療法が展開できたと考えた.【理学療法学研究としての意義】過去5年の本学会における破傷風に関する発表はなく,今後,破傷風の理学療法の一助となり得る.
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top