理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-P-22
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ポスター発表
抗精神病薬投与による維持期統合失調症患者の運動機能に及ぼす影響について
堀 大樹米田 浩久谷埜 予士次鈴木 俊明横野 文松岡 俊樹畑下 嘉之
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抄録
【はじめに、目的】抗精神病薬は精神症状に対する臨床効果が高い反面、定型抗精神病薬のような従来から使用されている精神病薬は強いドパミンD2受容体拮抗作用を有し、薬剤性パーキンソニズムの誘発作用があることが広く知られている。そして、抗精神病薬の投与が一義的な治療となる統合失調症患者では、罹病期間が長期に及ぶため、薬剤性パーキンソニズムの影響は無視できない。つまり、同患者では主疾患の影響だけでなく、薬剤性パーキンソニズムによる無動や筋強剛、姿勢反射障害によっても直接的にADLが障害されると考えられる。また、我々の臨床経験でも抗精神病薬の投与量が多いほどADL低下も重篤となる印象がある。一方で、維持期統合失調症患者のADL低下の原因が薬剤投与量ではなく、廃用とする報告もある(明﨑ら、2012)。そこで今回、姿勢制御や歩行速度と敏捷性、下肢筋力を示す指標である立位の重心動揺計測、Timed Up and Go test(TUG)、30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)の結果により維持期統合失調症患者の運動機能に対する薬剤の影響を検討した。【方法】対象者は、脳血管障害や整形外科的疾患の既往を有しない独歩可能な維持期統合失調症患者13名(男性6名、女性7名)とした。平均年齢は60.5(range:42-73)歳、平均罹病期間は33.1(range:15-47)年であった。全対象者で入院期間は罹病期間とほぼ同じであった。計測項目は静止立位の重心動揺、TUG、CS-30の3項目とした。薬剤投与量は測定1週前のクロルプロマジン換算量(CP値)を用いた。重心動揺計測にはユニメック社製重心動揺計を使用し、内果間距離15 cmとする開眼静止立位を15秒間保持させ、1人当たり3回計測した。計測中15秒間の総軌跡長最小値とそれに対応する外周面積を抽出した。TUGは日本運動器学会、CS-30はJonesら(1999)の方法に各々準拠して各1回実施した。得られた結果より、総軌跡長、外周面積、単位面積軌跡長を求め、直立姿勢制御能力を検討した。また、TUGで移動能力や敏捷性、動的バランス、CS-30で下肢筋力を検討した。CP値、年齢、罹病期間の各々を軸に、総軌跡長、外周面積、単位面積軌跡長、TUG、CS-30との関連性を検討した。統計学的手法はSpearmanの順位相関係数(rs)を用いて分析した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に趣旨と方法を説明のうえ、同意を得た。本研究は社会福祉法人青祥会セフィロト病院の倫理審査委員会の承認を得ている。【結果】CP値と単位面積軌跡長には有意な正の相関(rs=0.527)を、TUGとの間に有意な負の相関(rs=-0.682)を認めた。また、年齢と総軌跡長および単位面積軌跡長には有意な負の相関(rs=-0.549)、(rs=-0.626)を、TUGとの間に有意な正の相関(rs=0.510)を認めた。【考察】本結果のCP値と単位面積軌跡長およびTUG各々の相関関係より以下のように考察する。単位面積軌跡長は重心動揺の質的評価となり、相対的な重心動揺距離を反映する。本研究の対象者はこのような重心動揺の特性を有した状態で、移動能力や敏捷性、動的バランスを反映するTUGの成績が高いことから、統合失調症患者がしばしば拙劣な動作になることに関係している可能性が考えられる。また、年齢と総軌跡長、単位面積軌跡長およびTUG各々の相関関係より、加齢により重心動揺は量的にも質的にも少なくなり、TUGの成績が低くなることから、維持期統合失調症患者にみられる動作緩慢に関係していることも考えられる。統合失調症患者は疾患自体に起因するバランス能力低下や、危険認知能力が低下しているとも言われていることから、運動機能障害には複雑な要因が関与しているが、本研究の結果より維持期統合失調症患者には、薬剤および加齢の双方の要因から運動機能障害を考察し、理学療法に反映させることの重要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本邦における精神疾患患者に対する理学療法は保険医療制度の問題もあり、未だ充分に対応されていない。このため、精神疾患患者の理学療法に関するエビデンスは確立しておらず、治療介入や効果についての示唆も極めて少ない。これに対して、本結果からは薬剤および加齢の双方の要因より理学療法の評価や治療介入の変化が必要であることを意味しており、統合失調症患者の理学療法にとって意義のあるものと考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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