理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-07
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ポスター発表
体幹前傾角度を変化させた椅子からの立ち上がりにおける下肢の筋張力シミュレーション解析
渡辺 聡一郎岡﨑 稜白川 明日香中野 基山下 智徳酒井 孝文河村 顕治
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抄録
【はじめに、目的】これまで、立ち上がり動作での主要動作筋として広筋群や大殿筋が注目されてきた。近年、立ち上がり動作におけるハムストリングの働きにも注目が寄せられているが、筋電図を使用した実験が多く、筋張力の絶対値は求められていない。我々は床反力計と3 次元動作解析のデータを元に逆動力学解析により下肢の筋張力および膝関節にかかるストレスを求めた。【方法】対象は健常男子大学生5 名(21.4 ± 0.5 歳)である。測定開始肢位は先行研究より、高さ調節の出来る椅子に大腿部と床面が平行となるように座位を取り、膝関節屈曲100 度となるように設定した。上肢については、肘関節屈曲90 度に設定した。立ち上がりに関してはメトロノームに合わせて①体幹を出来る限り前傾させない立ち上がり②体幹を中程度前傾した自然な立ち上がり③体幹を出来る限り前傾させた立ち上がりを各パターン複数回計測し、その中で最もスムーズに動作を行えたデータを選択した。計測はリアルタイム三次元動作解析装置MAC3D System(Motion Analysis)、Hawkカメラ8 台、Kistler床反力計4 枚を用いて行い、得られたデータを元にnMotion musculous Ver.1.10 を用いて逆動力学解析を行った。nMotion musculousとは、詳細人体モデルに骨格筋の力学モデルを導入し、モーションキャプチャによる運動計測データから被験者の筋活動のシミュレーション解析を行うシステムである。マーカーはHelen Hayes Marker Set(マーカー数29個)に準じて貼付した。解析は、各パターンにて、離殿時から直立位までを基準とし、体重で正規化して検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認(承認番号:11-12)を得て実施し、対象者には書面および口頭にて本研究の説明を行い、同意を得た。【結果】立ち上がり動作に於いて、広筋群、ハムストリング、下腿三頭筋が優位な活動を示し、大腿直筋、大殿筋の活動は僅かであった。どの条件下でも広筋群と二関節筋であるハムストリングの筋張力が高い値を示した。体幹前傾角度が増加するにつれて広筋群の筋張力は低下の傾向を示し、ハムストリングの筋張力は増加する傾向を示した。前十字靱帯の張力は体幹を出来る限り前傾させない立ち上がりの時に最大値の平均が1.51 ± 0.27N/kgであり、体幹を出来る限り前傾させた立ち上がりでは最大値の平均が1.22 ± 0.83N/kgであった。半月板や関節軟骨に加わる膝関節圧迫力については体幹を出来る限り前傾させない立ち上がりで最大値の平均が19.97 ± 3.55N/kgであり、体幹を出来る限り前傾させた立ち上がりでは最大値の平均が17.86 ± 6.27N/kgであった。【考察】椅子からの立ち上がりにおける膝関節伸展には主に広筋群、下腿三頭筋が活動し、ハムストリングは立ち上がりの際に大腿四頭筋との同時収縮で膝関節の安定・股関節伸展に関与していると考えられる。広筋群の筋張力が体幹前傾角度の増加に従って減少した要因は体幹を前傾させるにつれ体重心が前方へ移動し、離殿後の床反力ベクトルが膝関節に近づくため膝伸展モーメントが減少したことが考えられる。この時、二関節筋である大腿直筋の筋張力も減少する傾向にあったが、広筋群と比較して遙かに小さい値となった。これは椅子からの立ち上がり動作のようなCKCでの股・膝関節同時伸展動作では、大腿直筋の股関節屈曲作用が動作を阻害するためであろう。一方ハムストリングは、膝屈曲作用よりも股関節伸展作用が遙かに大きいため大腿直筋とは対照的に大きな筋活動がみられたと考えられる。前十字靱帯は体幹の前傾角度が増加するにつれ、張力は減少する傾向にあった。前十字靱帯は大腿骨に対して脛骨が前方に移動するのを防ぐ作用がある。脛骨を前方に移動させる要因として、大腿四頭筋の筋活動が挙げられ、大腿四頭筋の張力は体幹の前傾角度が増加するにつれ減少する傾向にあり、それによって前十字靱帯の張力も減少したと考えられる。また、体幹前傾角度が増加するにつれて広筋群の筋活動が減少し、半月板や関節軟骨に加わる膝関節圧迫力も減少したものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の研究で、立ち上がり動作における体幹前傾角度が増加することにより、前十字靱帯、半月板や関節軟骨への膝関節圧迫力が減少することが示された。前十字靱帯損傷、半月板損傷などの膝疾患患者のリハビリテーションにおいて、立ち上がり動作を指導する際に体幹を出来るだけ前傾させて立ち上がるよう指導することで、膝関節ストレスを軽減することが出来ると考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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