抄録
【はじめに】理学療法を行う上で、姿勢や動作を分析することは患者の全体像を捉えるために有効であり、その力学的解釈は疾患の本質を表すことも少なくないとされている。臨床場面においては患者の全体像を捉えるために、三平面の動作分析、つまり前後屈、左右側屈、左右回旋動作をスクリーニングとして評価することはよく行われている。また、立位姿勢と各動作とは関係があるものとされているが、その関係性を調べた報告は少ない。そこで本研究では、左右側屈動作に着目し、立位姿勢との関係性について検討を行ったので報告する。【方法】対象は健常成人男性10 名(平均年齢26.2 ± 2.9 歳)とした。対象者の胸骨柄上縁、剣状突起、第二胸椎棘突起、両側肩峰、ASIS、PSIS、股関節、膝関節外側、膝関節内側、外果、第五中足骨頭、踵部の合計21 点に、赤外線反射マーカーを貼付し、以下の計測動作中の標点を、三次元動作解析装置VICON-MX(VICON社製)を用いて計測した。計測課題は静止立位と骨盤の側方移動を伴う体幹の側屈動作とした。自然立位は10 回、約20 秒間計測した。側屈動作は開始肢位を、足幅を両踵部のマーカーの距離が、両ASISの幅となるようにし、足関節内外転角度0 度とし、両手は側腹部に当てた。検者の口頭指示により至適速度にて側屈動作を開始、側屈動作は1 回の計測にて左右交互に4 往復行うものとし、左右の開始の順序はランダム、右側屈から開始する動作、左側屈から開始する動作を各2 回ずつ計4 回計測した。得られた標点の位置データから三平面内における骨盤と胸郭の絶対角度、体幹と股関節の相対角度、前額面上の骨盤中心位置と足部中心位置を算出した。静止立位データは約20 秒間のうち、10 秒間のデータの平均値を求め、10 回分の平均値の平均を代表値とした。側屈時のデータは側屈動作時の前額面上足部中心位置に対する前額面上骨盤中心位置を求め、左右側屈時にその距離が最も離れる値の0.01 秒間の各データを算出し、各側屈16 回分の平均値を代表値とした。静止立位を分析すると体幹右側屈・骨盤右挙上の者が6 名、体幹左側屈・骨盤左挙上の者が3 名、体幹右側屈・骨盤左挙上の者が1 名となった。その中で静止立位において体幹側屈側の骨盤が挙上している9 名を抽出し、静止立位での側屈側への側屈と、非側屈側への側屈動作について分析を行った。統計学的分析にはMann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は危険率5%(p<0.05)とした。【説明と同意】本研究は国際医療福祉大学大学院倫理審査委員会の承認を得て行った。また、被験者には事前に研究の主旨を説明し、研究協力についての同意書を締結した。【結果】静止立位での側屈側と非側屈側への側屈を比較すると、体幹の回旋相対角度、胸郭の回旋絶対角度に有意な差が認められた(p<0.05) 。体幹の回旋相対角度は側屈側の側屈では、側屈側と対側の回旋(静止立位にて右側屈している場合、右側屈時には左回旋)が平均2.81 ± 2.71°起き、非側屈側の側屈では、非側屈側と同側の回旋(静止立位にて右側屈している場合、左側屈時には左回旋)が平均1.73 ± 3.96°起きた。つまり、側屈側と非側屈側の側屈では同側方向の回旋がみられ、その角度は側屈側の側屈時に大きい値となった。胸郭の回旋絶対角度は、側屈側の側屈では、側屈側と同側の回旋が平均6.71 ± 5.06°起き、非側屈側の側屈では、非側屈側と同側の回旋が平均0.44 ± 5.08°起き、側屈側の側屈の方が大きい回旋角度となった。その他の体幹屈伸・側屈角度、胸郭前後傾角度・側方傾斜角度、骨盤前後傾角度・側方傾斜角度・回旋角度、股関節屈伸・内外転・回旋角度、前額面上足部中心位置に対する前額面上骨盤中心位置の比較では有意な差は認められなかった。【考察】今回の結果より、立位姿勢を前額面上の要素である体幹側屈と骨盤挙上の組み合わせで分け、側屈側と非側屈側への側屈を比較した際、最も影響を受けると推察される前額面上の動きではなく、水平面上の動きに影響を及ぼしていることが示唆された。つまり、静止立位において、各面上での姿勢変化が起きると、他の面上での動きに影響を及ぼしていることが示唆された。また、多くのパラメーターの比較において差がなかったこと、有意差があった体幹回旋角度、胸郭回旋角度においても、平均値に大きな差がないことより、側屈動作は左右差が少ない動作であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】静止立位と各動作を関連付けて評価する際、各面上での姿勢変化と動きを比較することはよく行われている。しかし、今回の結果より、前額面上の立位姿勢変化が、その後の動作においては水平面上の動きに影響を与える可能性があることが示唆された。これは、臨床場面において、患者の姿勢や動きを三次元的に捉える必要性があることを示している。