理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-02
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一般口述発表
外反母趾を有する若年者と高齢者の足部形状の違い
高井 聡志浦辺 幸夫篠原 博笹代 純平
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抄録

【はじめに、目的】 外反母趾は、母趾MTP関節の外反と内旋を伴う有痛性の疾患である。外反母趾を有する者は、外反母趾角(Hallux valgus angle:以下HVA)が20°以上になり、疼痛を覚えることで診断されることが多い(2008、外反母趾ガイドライン)。HVAの増大とともに、母趾外転筋は足部の底側へ移動し、母趾を外転させる機能が弱くなる。臨床上、外反母趾を有する若年者、高齢者の足部は、回内していることが多い。しかし、足部の回内とHVAが増加するメカニズムは検証されてない。年齢が高まるにつれ、HVAは増加することが多いが、その要因は多種多様であろう。外反母趾を有する者の足部構造(前、中、後足部)について、年齢による違いを示した報告は少なく、検証する必要があると考えた。本研究では、三次元分析で外反母趾を有する若年者と高齢者の足部形状を比較し、それぞれの特徴を示すことを目的とした。仮説として、高齢者の足部は若年者と比較し前、中、後足部がそれぞれ回内していると考えた。【方法】 対象は全例女性で、HVAが20°以上の学生10名(平均年齢22.8±3.8歳)と、老人保健施設に入所している高齢者10名(84.2±2.5歳)、計20名とした。測定姿位は安静立位にて、三次元足型測定装置(アイウェアラボラトリー社)を使用し測定した。足部16ヶ所にマーカを貼付し、8台の小型カメラで足部立体構造を算出し分析に用いた。足部形状の分析には、HVAに加え、前足部、中足部、後足部のアーチ構造の指標をもちいた。前足部の評価には横アーチ長率を用い、第1、5足趾のMTP関節隆起部のなす長さを足幅とし、足長に対する足幅の割合で計算した(横アーチ長率=足幅/足長×100)。横アーチ長率は、値が大きければ足部横アーチは低下しているものとした。中足部の評価には、アーチ高率を用い足長に対する舟状骨高の割合で求めた(アーチ高率=舟状骨粗面高/足長×100)。後足部の分析にはレッグヒールアングルを用いた。レッグヒールアングルは、角度が大きいほど後足部が回内しているものとした。若年者、高齢者の足部形状の比較には、対応のないt検定を用い、危険率5%未満を統計学的に有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、介護老人保健施設エルダーヴィラ氷見倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号0001)。【結果】 HVAは若年者で21.8±1.9°、高齢者で31.3±5.4となり、高齢者が若年者と比較し有意に大きい値となった(p<0.01)。横アーチ長率は若年者で41.7±0.9%、高齢者で43.7±1.7%となり、高齢者が若年者と比較し有意に大きな値となった(p<0.05)。アーチ高率は、若年者で17.5±1.8%、高齢者で17.9±7.4%とり若年者と高齢者の間に有意差は認められなかった。レッグヒールアングルは若年者で2.4±2.7°、高齢者で0.9±3.9°となり、若年者と高齢者では有意差は認められなかった。【考察】 本研究の対象の若年者、高齢者の外反母趾はそれぞれ、軽度と中等度と判断されるものであった。横アーチ長率は高齢者が若年者より有意に大きい値となり、高齢者の方が、横アーチが低下していた。また、アーチ高率、レッグヒールアングルは、若年者、高齢者との間に有意差を認めなかったことから、HVAの増加が足部横アーチ機能に関連がある可能性が考えられた。高齢者のHVAは中等度であったことから、母趾外転筋の機能は若年者と比較して低下している可能性が高く、母趾外転筋の機能や母趾アライメントの違いも前足部の形状に影響を与えているのかもしれない。また、母趾外転筋は足部の縦アーチとして、アーチの剛性を高めるとの報告もあるため、中足部、後足部にもHVAの増加は影響を与えることが考えられる。本研究では、アーチ高率、レッグヒールアングルには若年者と高齢者の間に有意差は見られなかったが、今後注意深い検証が必要である。今回は外反母趾がない者との比較を行っていないため、一般的な足部アーチと比較しどれくらい低下しているのかは不明である。今後健常な足との比較もおこない検証を進めたい。【理学療法研究としての意義】 筆者らは、外反母趾に対する運動療法(随意的な母趾外転運動)を実施し、HVAの減少に加えて、母趾外転筋の筋力、筋活動が増加することを報告している(2012、高井ら)。本研究により外反母趾の運動療法で注意すべきポイントが示された。外反母趾を有する高齢女性では、足部横アーチ低下を認め、運動療法を実施するうえで注目しておくべきであろう。

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© 2013 日本理学療法士協会
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