理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-P-24
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ポスター発表
健常高齢者における身体機能の変化と運動能力および住環境との関係
-藤原京スタディ追跡調査結果による後向き分析-
羽崎 完峯松 亮原納 明博岡本 希車谷 典男
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抄録
【目的】 一般に加齢に伴ってQOLは低下するとされているが,QOL低下のメカニズムについてはいまだ不明な点が多い。そこで,QOLの尺度のひとつである身体機能に着眼し,身体機能の変化と運動能力の関係,さらに身体機能の変化と住環境との関係を藤原京スタディ追跡調査をもとに検討した。【方法】 対象は,藤原京スタディベースライン調査に参加した65歳以上の高齢者で,2年後に行った追跡調査の協力が得られた者のうち,QOLに関する質問に対して回答のあった3,933名(男性1,954名,女性1,979名)を対象とした。QOLの評価は,ベースライン調査ではSF-36を,追跡調査ではSF-8を用い,これらの下位尺度である身体機能の結果をもとに,国民標準値に基づいてスコアリングした。運動能力の評価は,筋力,基本動作能力,平衡性,健脚性を測定した。筋力は,膝伸展筋力,膝屈曲筋力および握力を測定した。基本動作能力は,起居動作として寝返り所要時間,起き上がり所要時間および床からの立ち上がり所要時間を,立位基本動作として最大またぎ高および床のものを拾える最大距離を測定した。平衡性は,開眼片脚立位保持時間を,健脚性は10m歩行所要時間を測定した。住環境の評価は,階段の有無および使用頻度,生活様式,住宅周辺環境について自己記入式質問紙を用いて調査した。分析は,スコアリングした身体機能の結果から,男女毎に追跡調査時のスコアがベースライン調査時にくらべ低下した群と維持向上した群に分類し,運動能力項目について対応のないt検定にて比較した。次いで、身体機能低下におよぼす運動能力および住環境の影響の大きさを明確にするために,ロジスティック回帰分析を強制投入法で行い,オッズ比を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,奈良県立医科大学の倫理委員会の承認のもと,対象者からも同意の署名を得た。【結果】 QOL評価の結果男性では,低下群が1,193名,維持向上群が761名と低下群の方が多数であったのに対し,女性では低下群が887名, 維持向上群が1,092名と, 維持向上群の方が多数となった。t検定による群間比較では,男女ともに最大またぎ高,床拾い最大距離に有意な差は認められず,これら以外のすべての項目で有意に低下群の運動機能が高かった(p<0.001)。さらにロジスティック回帰分析の結果,男性では生活様式のオッズ比が0.85(95%CI 0.74-0.97),膝伸展筋力のオッズ比が0.90,床からの立ち上がり所要時間は1.21(95%CI 1.05-1.39),10m歩行所要時間は1.14(95%CI 1.01-1.28)と身体機能低下の有意なリスクとなった。女性では,膝伸展筋力のオッズ比が0.89(95%CI 0.82-0.97),床からの立ち上がり所要時間のオッズ比が1.16(95%CI 1.03-1.30),10m歩行所要時間は1.18(95%CI 1.03-1.34)と身体機能低下の有意なリスクとなった。【考察】 高齢者の身体機能変化と運動能力および住環境の関係を検討した結果,身体機能低下に関係する要因に,性差が存在することがわかった。身体機能低下群と維持向上群の総数が,男性と女性で逆転していた。これは,生活を営む上での役割が異なることによると推察する。つまり,女性が一般的に担うことの多い家事動作は,高齢となっても大きく変化しないため,比較的活動量が維持され,身体機能が維持されやすかったと考える。一方,男性が行うことの多い仕事は,加齢に伴って困難になりやすく全体的な活動量が低下するため,身体機能が低下しやすくなったと考える。そのため,ロジスティック回帰分析においても,男性で有意に生活様式という住環境因子が機能低下の有意なリスクとなり,女性では住環境が有意なリスクにならないという結果になった。したがって,男性のQOL維持のためには,生活の中で活動量を維持増加させる工夫が必要である。また,ベースライン調査にさかのぼると身体機能低下群の方が有意に高い運動能力であった。これは,高い能力の者は大きく低下しやすいのに対し,元来能力の低い者はそれ以上低下しにくいことを示している。つまり,機能の高い者は身体的に予備能力を持って日常生活を過ごしており,加齢によって予備能力が低下するものと考える。さらにロジスティック回帰分析の結果,性差に関係なく膝伸展筋力,床からの立ち上がり所要時間,10m歩行所要時間が機能低下の有意なリスクとなっていることから,これらの要因はほかにくらべQOLに影響しやすいことが確認できた。したがって,総合的に下肢機能を維持向上し身体機能を保つことが,QOLの維持に資することになると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は,健常高齢者にたいするQOL下位尺度の身体機能低下予防のための理学療法には,総合的に下肢運動機能を維持向上することが必要であること、また、生活を営む上での役割を考慮する必要があることを示している。
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© 2013 日本理学療法士協会
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