理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-01
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セレクション口述発表
固有受容性神経筋促通法の骨盤前方挙上パターンの中間域での静止性収縮が手運動野の脳活動に及ぼす影響-機能的MRIにおける検討-
白谷 智子新井 光男新田 收松田 雅弘多田 裕一妹尾 淳史柳澤 健
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キーワード: PNF, 骨盤抵抗運動, fMRI
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抄録

【はじめに、目的】 固有受容性神経筋促通法 (PNF) の骨盤後方下制パターンの中間域での抵抗運動による静止性収縮促通手技 (SCPD手技) により遠隔関節の整形外科疾患の肩関節 (Arai et al, 2012) と手関節(新井ら, 2004) の関節可動域 (ROM) が改善することが報告されている。機能的磁気共鳴画像 (fMRI) を用い脳活動を検証した報告 (Shiratani et al, 2012) では、SCPD手技とボールを握る運動において、ボールを握る運動で賦活が認められた感覚運動野 (SMC) とSCPD手技で賦活が認められたSMCにおいてオーバーラップする部位が認められ、手関節のROMの改善に脳活動が寄与している可能性が示唆された。また、PNFの骨盤パターンでは骨盤前方挙上パターンの中間域での抵抗運動による静止性収縮促通手技 (SCAE手技) が遠隔の肩・肘関節の他動ROM (上広ら, 2004) を改善させることは報告されているが手関節のROMへの効果の報告はなく、SCAE手技による手への脳領域への影響は明らかではない。SCAE手技が手関節に及ぼす効果の可能性を明らかにすることを目的に脳への賦活を検証した。【方法】 対象は神経学的な疾患の既往のない右利き健常成人12名 (男性6名、女性6名、平均年齢 (SD) 22.7 (2.3) 歳) であった。課題はボールを持続的に握る運動 (Grip) とSCAE手技を行った。各課題は右側を上にした側臥位で右側に対し行った。実験はブロックデザインを用い行い、課題を30秒、安静を30秒とし、1課題を3回繰り返すことを1セットとし、各課題1セットずつ行った。課題はランダムに配置した。測定装置はPhilips社製3.0T臨床用MR装置を使用した。測定データはMatlab上の統計処理ソフトウェアSPM8を用いて、動きの補正、標準化、平滑化を実施し、個人解析を行ったあと集団解析にて被験者全員の脳画像をタライラッハ標準脳の上に重ね合わせて、MR 信号強度がuncorrected で有意水準p<0.001にて解析を行った。また、課題間での脳賦活の違いとSMCでのオーバーラップ部位を検証するために、WFU PickAtlas (http://www.fmri.wfubmc.edu/cms/software) を用いて関心領域 (ROI) 解析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は首都大学東京安全倫理審査委員会において承認を得て行い、研究同意書に署名を得た人を対象とした。また、対象者には研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明した。【結果】 SCAE手技では、両側SMC・左大脳基底核・左視床・右縁上回などで賦活が認められた。Gripでは左SMCで賦活が認められた。今回、SCAE手技とGripともに左SMCに賦活が認められたが、オーバーラップする部位は認められなかった。【考察】 SCPD手技での研究ではShirataniら (2012) はGripとSCPD手技では左SMCでオーバーラップ領域が存在することを報告しているが、今回SCAE手技とGripでは左SMCにオーバーラップする部位は認められなかった。先行研究では脊髄レベルの反応において、SCPD手技とSCAE手技が橈側手根屈筋のH波の振幅値に及ぼす効果を比較した結果、SCPD手技はSCAE手技より橈側手根屈筋への抑制作用が強く、そのあと促通効果が大きいことを示唆し、運動パターンにより遠隔反応の効果に差があったとしている (Arai et al, 2012)。今回、脳賦活においてSCAE手技が手の領域に及ぼす影響は明らかとされなかったが、SCAE手技の影響は、総指伸筋の誘発電位による潜時により大脳を経由する長経路反射に影響を及ぼすことが示唆されている (新井ら, 2004)。今回のSCAE手技による脳の賦活は歩行に関与する感覚運動野・視床・大脳基底核には賦活が認められたことより、手の領域の関与に直接関与するのではなく、歩行ループ (Nachev et al, 2008) による上肢と下肢との連関による遠隔効果により影響を及ぼす可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究により、SCAE手技は手の活動領域に影響を及ぼさなかったが、歩行に関連した領域の賦活が認められ、歩行ループによる上肢と下肢との連関により、上肢の活動に関与する可能性が示唆された。

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© 2013 日本理学療法士協会
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