理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-46
会議情報

ポスター発表
主観的圧迫感が立位姿勢制御に及ぼす影響 知覚・姿勢・情動の関係性についての研究
古田 国大宮地 庸祐鈴木 惇也宮津 真寿美
著者情報
キーワード: 知覚, 足圧中心, 情動
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】我々は日々生活する上で、多様に変化する外部環境に適応する必要がある。その状況では、知覚と運動、また知覚や運動から生じる情動を含めた「知覚—運動—情動」の3 要素が複雑かつ相互に作用している。例えば治療場面では、立位練習時に、対象者に安心感を与える為に壁や支持器具など外部環境設定の工夫をする。これは、外部環境を知覚する際、物理的な支持としての機能のみでなく、環境の操作により生じる情動の変化も姿勢制御に影響していると考える。これまで我々は、側方に壁がある環境では、それがない環境と比較して足圧の中心変位が前方へ移動すること、すなわち知覚と姿勢制御の関係性について報告している。しかし、壁に対する圧迫感などの情動が、姿勢制御に影響するかについては言及していない。そこで本研究の目的は、側方の壁から受ける主観的圧迫感が足圧の中心変位や重心動揺軌跡長などに及ぼす影響を明らかにすることとした。【方法】対象は健常高齢者20 名とし、明らかな認知症症状や変形性関節症を認めるものは除外した。基本情報は、平均年齢74.0 ± 8.3 歳、平均身長151.8 ± 7.8cm、平均体重50.0 ± 7.3kg、全員独歩自立であった。測定は重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGS-31)を用いた。測定条件は、被験者の右側に壁がある条件(以下右壁)、左側に壁がある条件(以下左壁)、側方に壁がない条件(以下壁なし)の3 条件を無作為に行い、それを6 回施行し、2 回目から5 回目の測定値の平均値を代表値とした。壁と被験者との距離は、壁側の上肢が壁から約10cm離れる距離に設定した。測定値は総軌跡長、単位軌跡長、実効値面積、X及びY方向の中心変位を使用した。測定肢位は、閉脚立位で開眼30 秒とし、被験者の目線の高さに合わせたマーカーを重心動揺計の後端から4m前方に設置し、注視させた。また、重心動揺計上の立位位置を一定にするために、あらかじめ閉脚立位時の足のアウトラインを台紙にかたどっておき、その台紙の足型に合わせて重心動揺計に乗るよう指示した。測定後に、アンケート用紙を用いて側方の壁の主観的印象を数値化してもらい、その中から壁から受ける圧迫感の有無を抽出した。圧迫感の数値が右壁及び左壁の両方において、壁なしと同じであった者を圧迫感なし群(以下圧迫無群)、壁なしよりもどちらか一方でも高かった者を圧迫感あり群(以下圧迫有群)とした。結果の統計学的解析は、statcel2を用い、圧迫感の有無と壁の3 条件を要因として各測定値について2 要因の反復測定分散分析を行い、Post hoc testとしてTukey法を行った。有意水準は全て5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、愛知医療学院短期大学の倫理委員会の承認を得た上で行い、研究の説明を行い文書による同意の得られた者を対象とした。【結果】総軌跡長、単位軌跡長、実効値面積は、圧迫感の有無と壁の3 条件の2 要因において交互作用及び主効果はなかった。X中心変位は、壁の3 条件で主効果があり、Post hoc testでは壁なしと左壁、右壁と左壁で有意差を認め、側方に壁が存在すると壁側に中心変位が移動する結果となった。また、交互作用はみられなかったが、圧迫無群は圧迫有群と比較して壁の3 条件による差が大きい傾向にあった。Y中心変位は、壁の3 条件で主効果があり、Post hoc testでは壁なしと右壁、右壁と左壁で有意差を認め、側方に壁が存在すると中心変位が前方へ移動する結果となった。Y中心変位の交互作用はみられなかった。【考察】総軌跡長、単位軌跡長、実効値面積は2 要因の影響を受けなかったことから、重心動揺の大きさや揺れ方は壁の有無や圧迫感による変化がないと推察できる。そして、X中心変位の結果より、圧迫無群は壁のある条件で中心変位が壁側へ移動しやすかったが、圧迫有群ではその移動は少なかった。これは、圧迫無群と圧迫有群で、壁という構造体の知覚作用が異なっていたと考えられる。つまり、壁に対する主観が知覚運動相互作用に関係している可能性を示唆する。また、Y中心変位の結果は、両群共に壁のある条件で中心変位が前方へ移動した。これは、前後方向の動きである為に圧迫感の影響を受けず、周辺視野からの奥行き知覚により惹起されたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】外部環境設定から得られる情報は、それを知覚する対象者によって情報の質が異なり、その質の差により足圧中心の変化に差がみられることが示唆された。また、臨床現場において、日頃我々は外部環境の持つ意味を意識して介入をしているが、本研究の結果は、それを数値化して具体的に提示できたことに意義がある。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top