理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-46
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ポスター発表
視覚フィードバックの方法と筋収縮形態の違いが最大筋力発揮に及ぼす影響(第2報)
芥川 知彰榎 勇人室伏 祐介田中 克宜近藤 寛石田 健司谷 俊一
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抄録

【はじめに】筋力増強運動のプログラム設定では,筋収縮形態,運動強度,運動頻度などの要素が重要であり,運動強度に関しては最大筋力を元に設定することが一般的である.また,最大筋力は治療の効果判定にも用いられる.つまり,正確な最大筋力を測定し,運動効果の向上を目指す上で,各筋収縮形態に応じた特性を理解しておくことは重要である.我々は第46 回本学会において,視覚フィードバック(visual feedback;VF)の方法と筋収縮形態の違いにおける最大筋力発揮パフォーマンスを検討した結果,同一の筋収縮形態ではVFの違いによる効果を認めなかったが,等速性運動で等尺性運動よりVFの効果が高い可能性があることを報告した.しかし,実際の筋力測定場面では設定しない筋力の目標値を設定した点,対象者が等速性運動に不慣れであった点などが影響した可能性が考えられた.今回は,それらの問題点に配慮した上で新たに測定を行い,男女の性差についても考察を加えた.【方法】対象は,下肢に整形外科的既往のない健常成人14 名(女性7 名,男性7 名,平均年齢25.1 ± 4.3 歳)とした.筋力測定は筋力測定機器(川崎重工社製,MYORET RZ-450)を用いた等尺性(膝90°屈曲位で1 回)及び等速性(膝屈曲30-80°,60deg/secで1 回3 セット)膝伸展運動の2 種類を,足関節上前面にパッドを当てて計測した.まず,最大下収縮での練習で各運動に慣れさせた後,VFなしで筋力を2 回測定した.次に,数値によるVF(数値VF),棒グラフによるVF(グラフVF)を2 回ずつ順不同に与え,1 分以上の休憩を挟んで測定した.数値と棒グラフはモニタに映し出され,対象者には「画面を見ながら数値(棒グラフ)ができるだけ大きくなるよう力を出してください」と指示した.また,対象者の筋疲労を考慮し,等尺性運動と等速性運動は別日に実施した.全測定終了後,各対象者に力を出しやすかったVFを聴取した.データ処理では,VFなしでの最大値に対する各VF条件下の最大値の筋力比を算出し,筋収縮形態別に数値VFとグラフVFを比較した.また,筋収縮形態の違いによるVFの効果を比較する目的で,各VFの等尺性運動と等速性運動の筋力比も比較した.差の検定にはWilcoxonの符号付順位検定を用いた.さらに,各対象者の値の大きかったVFを筋収縮形態別に求め,性別によって好むVFおよび有効なVFに関連がないかを確認するため,Fisherの正確確率検定を行った.いずれの統計も有意水準は5%未満とした.【説明と同意】結果への影響を考慮し,測定前の説明は安全性についてのみ行った.測定終了後に研究の趣旨を説明し,発表でのデータ使用に同意を得た.【結果】等尺性運動のVF条件下における筋力比の中央値(四分位範囲)は,数値VF:103.8(97.0-108.4)%,グラフVF:105.8(100.0-112.1)%であり,グラフVFで有意に大きかった.等速性運動の筋力比は,数値VF:108.8(103.9-115.7)%,グラフVF:108.9(106.8-116.9)%で,VFの違いで有意差は認めなかった.等尺性運動と等速性運動の比較では,両VFとも有意差はなかった.力を出しやすかったと答えたVFは,女性では数値VF:3名,グラフVF:4名,男性では数値VF:4名,グラフVF:3名であった.等尺性運動で有効なVFは,女性で数値VF:0 名,グラフVF:7 名,男性で数値VF:2 名,グラフVF:5 名であった.等速性運動で有効なVFは,女性で数値VF:3 名,グラフVF:4 名,男性で数値VF:4 名,グラフVF:3 名であった.Fisherの正確確率検定において,いずれも性別との有意な関連は認められなかった.【考察】今回,最大筋力発揮パフォーマンスにおけるVFの効果を実際の測定場面に則して再検討した結果,性別に関係なく等尺性運動においてグラフVFが有効であった.数値VFでは,ピーク値が画面に表示され続けるため,リアルタイムの数値が把握できないという機器の仕様上の問題点がある.一方,グラフVFでは,ピーク値が線で表示され続け,リアルタイムの筋力も上下する棒グラフでフィードバックされるため,5 秒間の収縮中に力を発揮しやすかったことが考えられる.等速性運動においては,1 回の伸展運動が1 秒以内で終了するため,2 つのVFの間でその効果も表れなかったものと推察できる.前回の結果と異なり,筋収縮形態の違いでVFの効果に差を認めなかった要因としては,等速性運動に慣れさせた後に測定を実施したことが関与していると考えられた.今後は,VFの種類を増やしたり,他のフィードバックとの組み合わせを交えたりしながら,筋力発揮を最大限に引き出すのに最適な方法を模索していきたい.【理学療法学研究としての意義】筋力発揮を最大限に引き出す方法を解明しようとする我々の取り組みは,臨床で広く普及したhand-held dynamometerなどを用いた簡便な筋力測定と組み合わせることで,理学療法評価の発展に寄与できると考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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