抄録
【はじめに、目的】厚生労働省による平成23年人口動態統計において,肺炎は脳血管疾患を抜いて本邦における死亡原因の第3位と報告されている.免疫機能が低下した高齢者においては,死亡率が高く重症化する疾患の一つとして認知され,近年では肺炎球菌ワクチンをはじめとする予防への関心も高まっている.理学療法分野においては,入院加療を要した肺炎症例や肺炎罹患後の日常生活動作(Activity of Daily Living:以下,ADL)能力低下症例に対し,病院・施設,または在宅にて関わる機会は多く,二次的な身体能力低下の改善に難渋する場面に多く遭遇する.肺炎症例における当院での取り組みの一つとして,「肺炎標準プログラム」がある.これは,理学療法士間での介入の差をなくし,画一的に質の高いサービスを提供するための離床に向けた段階的プログラムの提示であり,この標準プログラムは臨床成績により妥当性・有効性の再検討を継続的に行い,臨床場面でのより良い活用を目指している.本研究では,肺炎症例における当院標準プログラム導入前後での離床獲得(車椅子座位獲得)までの経過を比較し,標準プログラム導入による効果判定を行うことを目的とする.【方法】対象は,標準プログラム導入前の平成23年7月19日から12月31日までの間に当院内科病棟に入院加療を要し,離床を目的に理学療法介入があった細菌性肺炎症例29例(うち男性21例,年齢80.2±6.3歳)と,平成24年5月1日から8月15日までの間に離床を目的に標準プログラムを用いた理学療法介入があった細菌性肺炎症例18例(うち男性14例,年齢84.6±7.6歳)とした.離床までの経過を調査する目的から,入院前ADLが常時臥床状態である症例は除外した.臨床データは,診療録より後方視的に収集し,測定項目は,基本情報(年齢,性別,身長,体重,Body Mass Index:以下,BMI),Barthel Index(以下,BI)による ADL評価,Pneumonia Severity Index(以下,PSI)による肺炎の重症度(合併症の有無を含む),経過期間(安静臥床期間,介入期間(理学療法開始から離床獲得までの期間),在院日数)とした.離床を決定するアウトカムは,Mundyらによる先行研究より,「入院から連続して20分以上の車椅子乗車が可能となるまでの期間」を用いた.理学療法介入における中止基準は,標準プログラム導入の有無に関わらず主治医が定める安静度とともに統一が図られた.肺炎標準プログラム導入後の理学療法介入では,各理学療法士にプログラムの内容と意図を十分に周知した上で実施された.分析は,各測定項目を標準プログラム導入前と導入後で比較をし,標準プログラム導入の効果判定を行った.統計には,統計ソフトR2.8.1を使用し,上記2群間での群間比較(対応のないT検定,Mann-WhitneyのU検定,χ²独立性の検定)を実施した.いずれも有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,研究計画や個人情報の取り扱いを含む倫理的配慮に関して,ヘルシンキ宣言に則った当院倫理委員会の承認を得て実施された.【結果】標準プログラム導入前後での2群間比較において,基本情報では年齢(導入前:80.2±6.3歳,導入後:84.6±7.6歳)において有意差が見られた(p<0.05).また,経過期間においては介入期間(導入前:13.3±18.0日(中央値6日),導入後:4.7±5.6日(中央値2日))において有意差が見られた(p<0.05).その他の基本情報,BI,PSI,経過期間には有意差が見られなかった.【考察】肺炎標準プログラム導入前後での2群間比較により,導入後の対象において有意に高齢であったにも関わらず,介入期間が短縮する結果となった.これは,肺炎標準プログラムの提示により,フローチャート形式での離床のステップアップ基準が明確な判断となり,個々の判断に委ねられていた離床の判断基準が統一化されたことが影響しているためと考えた.また,標準プログラムの使用により,臨床のアウトカムに対する意識付けができたことも影響を及ぼしたものと推測された.杉野らは,肺炎の治療は起因菌の種類や年齢,重症度,合併症などにより治療薬剤や処置が異なり,治療期間も変動するため,クリニカルパス化しにくい疾患としているが,本研究より,離床や理学療法プログラムに関しては,ルーチンやクリニカルパスに代わる標準プログラムの可能性が示唆された.今後は,ADL再獲得までの段階的プログラムについて妥当性・有効性を検証していく一方で,安静臥床期間の短縮に向けた他職種への働きかけ,病棟での離床プロトコールの作成,ADL再獲得後の早期退院に向けた退院支援等について検証していくことが課題である.【理学療法学研究としての意義】肺炎標準プログラムを作成することは,個々の理学療法士の判断に委ねられてきた既存の離床計画の見直しを図り,画一的に質の高い理学療法サービスを提供することに寄与することが考えられる.