抄録
【はじめに、目的】 2011年の我が国における肺炎による死亡者数は、脳血管障害を抜き第3位となった。更に高齢者の死亡者数に限れば肺炎が第1位である。この肺炎罹患者の多くが、長期療養型施設などに入所している高齢者である。2011年に日本呼吸器学会は、介護を必要とする高齢者、長期療養病床群もしくは介護施設に入所する患者が主たる対象者として発症する肺炎を、医療・介護関連肺炎(NHCAP)として定義し、診療ガイドラインを公表した。しかし、診療ガイドラインにおいては、原因菌に対する適切な抗菌薬の選択方法を中心に肺炎診療の指針はなされているが、感染症対策や予防法に対しては十分ではない。今後、在宅医療へと転換されていくことで、最も多く関わるリハビリテーションによる介入が重要となってくる。そのために、理学療法士(以下、PT)・作業療法士・言語聴覚士などが中心となってNHCAP予防に向けた介入を実施していく必要がある。本研究では、予防的介入法確立への前段階として、介護老人保健施設(以下、老健)従事者に対するアンケートを実施することでの現状把握を目的とする。【方法】 (1)調査対象:北海道内における多施設の老健に従事する職員136名(36.7±10.7歳)を調査対象とした。(2)調査方法:平成22年7月に開催された介護老人保健施設を対象とした職員研修会参加者に、無記名での自記式アンケート用紙を配布し、研修会終了後に回収する集合調査法にて実施した。(3)調査内容:勤務施設について、アンケート回答者の基本属性、勤務先での日常業務、老健における呼吸ケア・リハビリテーションなど呼吸ケアに対する所属施設での現状と意識などについて問う項目を設定した。【倫理的配慮、説明と同意】 調査実施に際し、紙面上にて本研究の主旨と調査結果を記号化させ、個人特定ができないことを説明し、同意を得た上で調査を実施している。【結果】 呼吸ケアの必要性を感じる対象者として、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(80.1%)、肺炎(69.9%)、中枢神経疾患(56.6%)、高齢者(57.4%)が挙げられた。しかし、実際に十分に実施されているという回答は10%に満たなかった。また、PT(21名)のみに着目すると、所属施設での呼吸ケア実施状況の内訳は、十分に実施できている(0名)、ある程度できている(0名)、どちらでもない(2名)、あまり実施できていない(19名)であった。その理由として、「知識および技術不足」が80%以上を占めた。実際の呼吸ケア介入方法としては、全体では呼吸練習(45%)、パーカッション(32%)、歩行練習(33%)、リラクセーション・呼吸筋トレーニング・体位排痰法・気管内吸引(22%)であった。一方、PTでは、胸郭可動域練習(80%)、歩行練習(76%)、リラクセーション・呼吸練習(71%)、呼吸筋トレーニング・自転車エルゴメーター(52%)、呼吸介助(47%)であった。また、呼吸ケアについて困っていることについての自由記載では、「誤嚥性肺炎の予防および対応が分からない」「所属施設での呼吸ケアに対する理解が得られない」などが多かった。【考察】 本研究結果から、老健施設においてCOPD、肺炎、中枢神経疾患、高齢者などに対する呼吸ケアの必要性を感じていながら、知識や技術がない為に実施されてない現状が明らかになった。これは、PTのみに着目しても同様の結果であった。今後、更に高齢化社会が進行し、患者の多くが在宅や老健で生活を送ることが予想されることから、PTの役割も変化していき、発症予防という概念がより一層重要になると考える。PTが中心となり、呼吸ケアに対する基礎知識と技術が得られる機会を増やし意識を高めていくことが、今後の課題であると考える。NHCAPに対する予防的介入法確立に向けての展望として、まずはNHCAP発症要因について検討を行い、リハビリテーションの視点からリスク指標を明らかにしていく必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 現在、日本呼吸器学会で、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの併用接種を行うことで、高齢者介護施設の肺炎による入院回数を減少させ、医療費を年間5,110億円削減されると試算されている。しかし、NHCAPの本質である誤嚥性肺炎は、発症を繰り返してしまうため根本的解決は困難である。したがって、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などが中心となり、リハビリテーションによる誤嚥性肺炎再発に対する予防法を確立させることで、NHCAP発症者数を減少させ、更なる医療費削減が見込まれる。本研究により、老健での呼吸ケアに対する現状把握が行えたことで、予防的介入法確立に向けた展望が明確になった。今後、理学療法学的観点からNHCAP発症リスク因子の特定および予防的介入法確立に向けた介入研究を行っていくにあたり、非常に意義のある研究である。