抄録
【はじめに、目的】 回復期以降の脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)のADL能力の低下を緩徐にするためには屋外歩行や一定以上の活動量が必要であるとされており,いかに屋外へと活動範囲を広げられるかがリハビリテーションには求められる。しかし臨床においては上り框や玄関前の段差といった日本家屋特有の高低差が片麻痺患者の外出を妨げる要因の1つになることを経験する。片麻痺患者における高低差の昇降動作を報告した先行研究では階段昇降に関するものが散見され,非麻痺側下肢筋力や麻痺側下肢荷重率等の影響要因が重要であるとされている。一方で階段よりも段数が少なく,日常的に遭遇頻度の多い段差の昇降に関しては複数の要因を検討した報告はみられない。そのため数段の段差昇降動作に影響する要因を探ることは片麻痺患者の移動能力を高めるためにも重要である。本研究の目的は片麻痺患者において,2段の段差昇降動作の可否に影響する要因を検討することである。【方法】 平地歩行が可能な片麻痺患者30名(年齢66.8±10.0歳)を対象とした。従属変数は2段の段差昇降動作の可否とし,段差は国土交通省が高齢者等に配慮し定めた上り框の規格を採用し,高さ18cmの2段とした。昇降に際しては手すりや杖,補装具類の使用は認めなかった。説明要因として下肢Brunnstrom recovery stage(以下,下肢BRS),深部感覚障害の有無,非麻痺側膝伸展筋力体重比(kgf/kg),非麻痺側・麻痺側下肢荷重率(%)を調査した。非麻痺側膝伸展筋力体重比は徒手筋力計ミュータスF-1を,下肢荷重率はアニマ社製下肢荷重計G620を用いて測定した。統計解析は段差昇降動作可能群と不可能群間で説明要因の差の検定をt検定またはχ²検定を用いて行った。次に単変量解析にて有意差の認められた説明要因を標準化し,段差昇降動作の可否を従属変数とするロジスティック回帰分析を行い,1標準偏差(Standard Deviation;以下,SD)あたりのオッズ比を算出し,段差昇降動作への影響力を検討した。また,ロジスティック回帰分析にて影響度の大きかった要因に対して,理学療法介入の際の示唆を得るために,Youden法を用いてカットオフ値を算出した。解析にはIBM社製SPSS (Version 18)を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は大山リハビリテーション病院の倫理委員会の承認を得た後に実施し,対象者に対しては文章と口頭にて説明を行い書面にて同意を得た(承認番号1113)。【結果】 対象者30名中,段差昇降動作可能群は14名,不可能群は16名であった。段差昇降動作可能群と不可能群間での単変量解析では非麻痺側膝伸展筋力体重比(p=0.008)と麻痺側下肢荷重率(p=0.002)に有意差を認めたが,下肢BRS(p=0.159)と深部感覚障害(p=0.141)は有意差を認めなかった。ロジスティック回帰分析では,麻痺側下肢荷重率(1SDあたりのオッズ比20.474,信頼区間1.1778-234.978)のみが段差昇降動作に影響する有意な要因であった。また2段の段差昇降動作の可否判別について,麻痺側下肢荷重率のカットオフ値を77.4%とする場合,感度78.6%,特異度81.2%,全体的中率80%,曲線下面積0.821,Youden指数0.598であった。【考察】 片麻痺患者において,2段の段差昇降動作が可能であったものは非麻痺側膝伸展筋力体重比と麻痺側下肢荷重率が有意に高値を示し,先行研究と同様の傾向であった。2段の段差昇降動作への影響要因について,ロジスティック回帰分析では麻痺側下肢荷重率が有意に影響していることが示され,片麻痺患者においては麻痺側下肢への荷重能力が段差昇降動作に重要な意味をもつことを確認し得た。また2段の段差昇降動作の可否を判別する際の麻痺側下肢荷重率のカットオフ値は77.4%であったが,この値の判別能力は曲線下面積やYouden指数の結果から比較的良好なものであったと考える。本研究における麻痺側下肢荷重率のカットオフ値は,先行研究にて示されている階段昇降動作の可否判別のカットオフ値よりも低値を示し,段数の違いにより必要とされる麻痺側下肢荷重率は変化する可能性があることを示唆した。【理学療法学研究としての意義】 片麻痺患者において2段の段差昇降動作の可否には麻痺側下肢荷重率の影響が強いことが示唆された。2段の段差昇降動作の可否を判別する際の麻痺側下肢荷重率のカットオフ値は77.4%であり,階段昇降動作のそれよりも低い値を示した。これは数段の段差昇降に難渋する片麻痺患者を評価する際の着眼点のひとつとなり得る。