抄録
【はじめに、目的】地域在住の高齢脳卒中患者が有する低い転倒自己効力感は、転倒やQuality of lifeの低下、活動・参加制限の要因となることが報告されている。このことから回復期リハビリテーションでは、入院中に転倒自己効力感を高め、退院後の在宅生活につなげることが重要である。しかし、転倒自己効力感に影響を及ぼす要因は多岐にわたること、退院直前における脳卒中患者の転倒自己効力感に関する報告が少ないことから、臨床現場で転倒自己効力感を改善させるための具体的な介入点は明確となっていない。そこで本研究では、退院時における高齢脳卒中患者の転倒自己効力感に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。【方法】リハビリテーション病院を退院する高齢脳卒中患者38名(平均年齢:73.2±6.4歳、女性16名)に対し、退院日より1~12日前に調査を実施した。取り込み基準は、自宅退院、自宅内移動手段が歩行、Mini-Mental State Examination(MMSE)が21点以上の者とした。調査は、Falls Efficacy Scale(FES)、10m歩行速度、片脚立位保持時間(麻痺側・非麻痺側)、Manual Function Test(MFT)、Functional Independence Measure(FIM)運動項目、疼痛の有無、入院中の転倒経験の有無(転倒有無)、Geriatric Depression Scale-15(GDS)を実施した。分析は、各調査項目間でPearsonの積率相関係数を算出した。その後、FESを従属変数、FESと相関関係にある項目を独立変数とし、多重共線性の問題に配慮した上で重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、埼玉みさと総合リハビリテーション病院倫理審査委員会の承認を得て実施し、対象者には研究の内容を口頭と書面で説明し、書面にて同意を得た。【結果】FESと相関関係が認められた項目は、10m歩行速度(r=-.605、p<.05)、麻痺側片脚立位保持時間(r=.424、p<.05)、非麻痺側片脚立位保持時間(r=.410、p<.05)、MFT(r=.541、p<.05)、FIM運動項目(r=.609、p<.05)、転倒有無(r=-.575、p<.05)、GDS(r=-.424、p<.05)であった。FESを従属変数とした重回帰分析の結果、FESに最も影響を及ぼす要因は転倒有無(β=-.455、p<.05)、次いでGDS(β=-.393、p<.05)であった。これら2項目はFESに負の影響を与えていた。一方、FIM運動項目(β=.307、p<.05)はFESに正の影響を与えていた。得られた重回帰式は、FES=21.054-5.107×転倒有無-0.604×GDS+0.180×FIM運動項目であり、決定係数は.615であった。【考察】Banduraの理論では、自己効力感に影響を及ぼす情報源は、遂行行動の達成、代理体験、言語的説得、生理的・情動的喚起であるとされている。ステップワイズ法で抽出された3項目のうち、転倒経験と日常生活活動能力は遂行行動の達成に、抑うつ傾向は生理的・情動的喚起にあたる部分であると考えられ、これら3項目が転倒自己効力感に影響を及ぼす要因として抽出されたことは、妥当な結果であると考える。また、転倒自己効力感に対して転倒経験と抑うつ傾向は負の影響を与え、日常生活活動能力は正の影響を与えていた。このことから、臨床場面では転倒と抑うつ傾向の発生は予防的にアプローチし、日常生活活動能力は可及的早期から獲得できるようにアプローチする必要があると考える。さらに重回帰式から転倒経験を有する患者であっても、抑うつ傾向になければFIM運動項目を78点まで改善させることである程度の自信を持って退院を迎えられる可能性があることが示唆された。したがって、今回抽出された項目は単独ではなく、それぞれの関連性を考慮した中で介入していくことが転倒自己効力感の改善に重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】高齢脳卒中患者の転倒自己効力感を改善させるための介入点を示したことが本研究の意義であると考える。