抄録
【はじめに、目的】 ヒトは行為の際に各種感覚の統合により身体イメージを作り,これを基に運動イメージ(MI)を生成する(森岡,2005).疼痛,不使用により感覚入力が減少するとMI想起能力が低下することが知られている.このことから感覚入力やMIを用いた治療介入は慢性疼痛に対する治療法として注目されている.先行研究より鏡視下腱板修復術(ARCR)後の術後成績に影響する要因として年齢,断裂サイズ,断裂腱数,棘上筋の脂肪変性,棘上筋の厚み,肩峰骨頭間距離(AHI)などが報告されているが,ARCR後の感覚機能やMIが術後成績に与える影響についての報告はない.また,感覚入力やMIを用いた介入効果に関する報告の多くは運動機能回復ではなく疼痛軽減に主眼が置かれている為,ARCR後の感覚機能・MIが術後成績の機能面に与える影響を明らかにすることは重要である.そこで本研究の目的は術前身体的要因と,自動運動開始後2週における感覚機能,MIを踏まえた術後機能的要因が術後4ヶ月の日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOAスコア)機能項目の予測因子になるのかを明らかにすることとした.【方法】 研究デザインは縦断的研究とした.対象は平成23年9月から平成24年6月までに当院にてARCR施行された24例24肩,男性14肩,女性10肩,平均年齢68.3±6.3歳.両側罹患例・石灰沈着性腱板炎でARCR施行された症例は除外した.術後成績に影響すると思われる術前身体的要因として年齢,罹患期間,断裂サイズ,断裂腱数を測定した.また,電子カルテから,村ら(2006)の方法にてMRIより棘上筋の厚みを測定し,井上ら(2010)の方法にてレントゲンより上腕骨頭の上方変位量をAHIの上腕骨頭臼蓋部分に対する比(A/H比)で算出した.自動運動開始後2週の術後機能的要因として肩関節位置覚屈曲45°(JPS45°)と90°(JPS90°)を測定し,MIをMental Rotation(MR)を用い,その反応時間と正解率を測定した.疼痛をNumerical Ration Scale(NRS)にて測定し,肩関節自動屈曲可動域(ROM)を測定した.術後成績は術後4ヶ月のJOAスコアを測定し,下位項目である機能項目を採用した.統計学的検討には重回帰分析を用い,目的変数をJOAスコア機能項目とし,説明変数に術前身体的要因,術後機能的要因を投入した.尚,断裂サイズは大断裂未満,大断裂以上に分け,ダミー変数に変換して投入した.危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て行った.参加者には本研究の目的・内容を用紙にて説明し,署名にて同意を得た.【結果】 術後機能的要因は術後平均58.3±5.3日,JOAスコアは術後平均124.1±18.0日に測定された.JOAスコア機能項目に有意に関連した変数として年齢(β=0.38),罹患期間(β=-0.29),断裂腱数(β=-0.30),棘上筋の厚み(β=0.45),A/H比(β=0.30),MR反応時間(β=-0.25)・正解率(β=0.28),ROM(β=0.45)が認められた(p<0.01,r²=0.90).【考察】 Shaneら(2009),村ら(2006)により術後成績に影響する要因は年齢,断裂サイズ,断裂腱数,棘上筋の脂肪変性,棘上筋の厚み,AHIなどが報告されている.今回の結果から,これらに加えて自動運動開始後2週におけるMRが術後4ヶ月のJOAスコア機能項目の予測因子となることが示唆された.JOAスコア機能項目は筋機能と日常生活動作能力(ADL)から成る.先行研究よりMIを用いた治療介入が筋機能とADL向上に有効であったとの報告がある.このことからMIが良好な者,すなわちMR反応時間が速く,正解率が高い者ほど筋機能・ADLが良好となったと考える.山田ら(2009)は肩関節周囲炎症例を対象としたMRを用いた研究により,患側のMI想起能力が低下していること,MI介入が肩機能改善に有効であることを報告している.ARCR症例は術後疼痛,装具固定による不使用からMI想起能力が低下する可能性が推察される.MI介入は患肢の運動を必要としない為,術後早期から実施可能である.ARCR症例においても術後からMI介入を行うことでJOAスコア機能項目である筋機能とADLの向上をもたらす可能性があると思われる.【理学療法学研究としての意義】 ARCRの自動運動開始後2週のMRが術後4ヶ月のJOAスコア機能項目の予測因子となることが明らかになったことは,臨床におけるMI介入の一助と成り得ると考える.