理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-07
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セレクション口述発表
大腿骨近位部骨折症例における術後血清アルブミン値の推移と歩行能力に関する検討
江渕 貴裕荒畑 和美太田 隆時村 文秋
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抄録

【はじめに、目的】 大腿骨近位部骨折を受傷する症例の多くは転倒を契機としており、その原因には筋力低下や歩行能力低下、バランス能力低下などの身体機能障害や、認知機能障害などが存在する。また、大腿骨近位部骨折症例では著しく痩せている症例や、栄養状態の指標の一つである血清アルブミン値(以下Alb値)の低い症例が散見され、低栄養状態が転倒、受傷の背景にあることが予測される。治療は入院・手術・リハビリテーションを実施し、歩行再獲得を目標とするが残念ながら全例が歩行可能となるわけではない。 そこで本研究では高齢大腿骨近位部骨折症例における術後Alb値の推移と歩行能力との関係を明らかにすることを目的とする。【方法】 2008年1月から2011年3月までに当センターに入院し、当科に依頼のあった高齢大腿骨近位部骨折症例529例のうち、受傷前歩行能力が屋内歩行レベル(屋内歩行見守り以上、屋外歩行不可)であり、人工骨頭置換術または観血的骨固定術を施行した61例(男性8例、女性53例)を対象とした。なお、脳血管疾患やパーキンソン病など歩行やADLに影響する疾患を有する者、上肢骨折合併例、術後免荷期間を必要とした者は除外した。対象群の年齢は85.8±6.6歳、MMSEは16.5±9.7点、BMIは19.4±3.3であり、平均理学療法期間は36.0±15.5日であった。 全対象の入院から術後3週までのAlb値の推移を調査した。次に術後3週までに歩行再獲得できた群とできなかった群の2群に分類しAlb値の推移を調査、比較検討した。その他、年齢、BMI、MMSE、握力、受傷から手術までの期間、術後PT期間についても2群間で比較検討した。更にAlb値と最大歩行距離の関連性についても調査した。なお、歩行再獲得の定義は「介助を必要とせず50m以上歩行可能。歩行補助具の使用は制限しない。」とした。 統計手法は対応のないt検定、ピアソンの相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され、当センターの平成22年度当院院内研究課題審査にて承認されたのち実施された。【結果】 全対象の入院時のAlb値の平均は3.4±0.5g/dlであった。歩行再獲得した者は30例(49.1%)であった。Alb値の推移は歩行再獲得群(g/dl)VS歩行不能群(g/dl)で入院時3.5±0.5VS3.2±0.4、術直後2.7±0.4VS2.4±0.3、術後1週2.7±0.3VS2.5±0.4、術後2週2.9±0.3VS2.7±0.4、術後3週3.1±0.3VS2.8±0.3であった。術後1週を除く全ての時点で歩行不能群が有意に低値を示した(入院時、術後2週でp<0.05、術直後、術後3週でp<0.01)。 歩行再獲得群VS歩行不能群で年齢83.4±6.3歳VS88.0±6.1歳、BMI19.7±2.6VS19.0±3.8、MMSE21.9±8.1点VS11.4±8.4点、握力0.3±0.1kg/体重VS0.2±0.1kg/体重、受傷から手術までの日数6.3±3.4日VS6.7±5.1日、手術後PT期間40.2±12.2日VS32.7±17.7日であった。このうち2群間で有意差を認めたものは年齢、MMSE(いずれもp<0.01)、握力(p<0.05)であった。術後3週でのAlb値と獲得できた最大歩行距離との相関係数は0.37であった。【考察】 入院時のAlb値の平均は3.4±0.5g/dlであった。これは東京都健康長寿医療センター研究所の低栄養の基準である3.8g/dlを下回っており、61例中50例は受傷前から低栄養状態であったと考えられた。 Alb値の推移は歩行再獲得群、歩行不能群ともに手術後に急激な低下を認め、その後緩やかに回復を認めるが、術後3週時点では入院時の値まで回復していなかった。また、入院時、術直後、術後2週、術後3週の時点において歩行不能群は有意に低値を示した。今回は受傷前歩行能力が屋内歩行レベルの者を対象としたが、歩行不能群では歩行再獲得群よりも更に低栄養の者が多いことが示された。Alb値と最大歩行距離には弱い正の相関があり、歩行不能群の中のMMSEが0点であった一例を除けば術後3週の時点でAlb値が3.2g/dlより高値の者では歩行再獲得しなかった者はいなかった。しかし、3.2g/dl以下では歩行再獲得群、歩行不能群が混在していた。2群間で年齢、MMSE、握力で有意差を認めたことはAlb値以外の筋力や認知面などの因子が歩行再獲得に影響を及ぼしている可能性があることを示唆していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 栄養状態は理学療法を進める上で把握すべき情報である。今回の結果は術後の栄養管理の指標や予後予測の因子の一つとなりうる可能性がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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