理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-05
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セレクション口述発表
Wind-up相での挙上側股関節屈曲角度が片脚立位バランスに及ぼす影響
芝 俊紀浦辺 幸夫前田 慶明篠原 博笹代 純平國田 泰弘河野 愛史松浦 由生子
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抄録
【はじめに、目的】 投球動作のwind-up相での,骨盤後傾や非投球側への過度の体幹側屈といった不良姿勢は,以降の相でのスムーズな運動連鎖を阻害し,投球障害を引き起こしやすいといわれている(筒井ら,2004).これに対して,片脚立位の安定性を高める練習が推奨されている(House,1994).実際に,健常男性より野球選手の方が,片脚立位バランス能力(以下,バランス能力)が高いという報告がある(伊藤ら,2011).さらに,wind-up相での挙上側股関節屈曲角度(以下,屈曲角度)の増加が,以降の相への並進運動の位置エネルギーを増加させる利点があるとされている(西川ら,1992).よって,屈曲角度を増加させた状態で高いバランス能力を有することは,投球動作を向上させるうえで重要であると考える.本研究は足圧中心(center of pressure;COP)の偏移量をバランス能力の指標とし,屈曲角度の違いによるバランス能力の変化を確認することを目的とした.仮説として,投手はwind-up姿勢でのバランス能力が高く,屈曲角度を増加させてもバランス能力に変化はみられないとした.【方法】 対象は,下肢に整形外科疾患の既往のない投手12名(年齢20.7±1.0歳)をP群,野球経験がなく運動習慣のない健常男性12名(年齢20.7±0.8歳)をC群とした.COPの測定は,平衡機能計(ユニメック社)を使用した.片脚立位は,3m前方(捕手方向)の一点を注視させ,軸脚(右投げは右脚,左投げは左脚)で実施した.測定者が安定していると判断した時点から,10秒間の計測を各条件で3回ずつ行った.屈曲角度は,P群が投球時の角度(以下,通常)と最大屈曲時(以下,最終域)の2課題とした.C群は,P群の通常角度を参考に屈曲角度90°の1課題とした.単位軌跡長,前後方向単位軌跡長,左右方向単位軌跡長の平均値を求めた.マーカーを対象の挙上側の肩峰,大転子,大腿骨外側上顆に貼付し,デジタルカメラ(SONY社)で撮影した.撮影した動画から,画像処理ソフト(Image J)を用いそれぞれの屈曲角度を確認した.統計処理は,SPSS (IBM社)を使用した.P群の通常とC群の屈曲角度90°の比較には対応のないt検定を,P群での屈曲角度の違いによる比較には対応のあるt検定を用いた.いずれも危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象には本研究の趣旨について十分な説明を行い,書面で同意を得た.なお,本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1224).【結果】 P群では,屈曲角度が通常で91.3±7.4°,最終域で109.5±7.9°となった.単位軌跡長は通常で60.8±6.6mm/s,最終域で72.3±8.0mm/sであり,前後方向単位軌跡長は通常で37.9±4.8mm/s,最終域で46.3±6.9mm/s,左右方向単位軌跡長は通常で39.8±4.3mm/s,最終域で46.2±4.0mm/sであった.C群では,単位軌跡長が72.4±7.9mm/s,前後方向単位軌跡長は46.7±5.3mm/s,左右方向単位軌跡長は46.8±5.7mm/sになった.P群の通常は,C群およびP群の最終域よりも全ての項目で有意に小さかった(p<0.01).【考察】 本研究より,P群はC群よりも股関節屈曲90°付近で約14~20%COP偏移量が小さく,伊藤ら(2011)の報告と同様に,健常男性より投手のバランス能力が優れていることが示された.これは,wind-up相での高いバランス能力が投球動作で必要であることを反映していると考える.しかし,P群では屈曲角度のさらなる増加によって,約15~22%COP偏移量が増加することが確認された.このことは,屈曲角度を増加させた状態を保持することが,バランス能力の高いP群でも困難になったためと考える.したがって,屈曲角度を増加させ,それを維持するようなバランス検査が,投手のバランス能力の高さをより顕著に反映する可能性がある.このことから,屈曲角度を増加させた状態でのバランス検査が,投手に対する評価法,またはトレーニングとして提案できるのではないかと考える.今後は屈曲角度を増加させた時のバランス能力と,実際の投球動作や制球力などのパフォーマンス,投球障害との関係を調べる必要がある.【理学療法学研究としての意義】 本研究より,高いバランス能力が必要とされる投手でも,股関節屈曲角度を増加させた状態を保持すると,バランス能力が低下することが示された.よって,今回の片脚立位の測定方法が,投手のバランス能力を反映する検査として有用となる可能性がある.
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© 2013 日本理学療法士協会
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