理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-26
会議情報

ポスター発表
加齢に伴う筋機能評価の表面筋電図学的検討 振幅確率密度関数を用いた分析の有用性の検討
古川 公宣下野 俊哉
著者情報
キーワード: 表面筋電図, 加齢, 骨格筋
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】表面筋電図は非侵襲下で筋活動電位を導出するため,簡便な筋機能評価法として有用である.筋電図波形の解析で得られる指標は,活動電位の大きさ(振幅)とその経時的変化及び波形の中に含まれる周波数成分である.この中で,加齢に伴う筋機能の変化を捉えるためには周波数値が用いられている.我々は過去の本大会において,表面筋電図波形の分析に振幅確率密度関数(Amplitude Probability Distribution Function:APDF)を用い,筋出力や運動速度の変化に対するこの解析法の感受性と特徴を報告した.本研究目的は,加齢に伴う筋機能の変化をAPDF解析を用いて分析し,従来の指標である周波数値との関連性を検討する事である.【方法】30 歳代(13 名:34.3 ± 1.7 歳),50 歳代(5 名:54.2 ± 3.3 歳),70 歳代(13 名:75.1 ± 3.0 歳)の健常成人女性を対象とした.被験筋は,過去の加齢に関する研究報告において対象とされる頻度が高い前脛骨筋とした.被験者は,足関節底背屈0°位で験者の加える底屈方向への最大徒手抵抗に対してこの肢位を5 秒間維持した.この間の筋活動電位を導出し,連続して2 秒間安定した部分の筋活動電位を解析に使用した.APDF解析は,対象波形中の最大振幅を基準として,5%毎の度数分布を作成,各階級の全データ数に対する割合を算出し,出現確率とした.また,周波数値は高速フーリエ変換を用い,中間周波数値を算出,平均振幅値も算出した.統計学的検定には一元配置分散分析を使用し,多重比較検定にて各年代間の有意性を有意水準5%未満で検討した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者は研究の目的と内容の説明を受け,同意の後に本研究に参加した.【結果】平均振幅値は3 群間に有意差はなかった.中間周波数値は加齢と共に低値を示す傾向があり,30 歳代が70 歳代に比べて有意に高値を示したが(p<0.05),その他の年齢群間に有意差はなかった.APDF解析では15-20%振幅帯を境に,これより低い振幅帯では低い年代が低値を示しており,30 歳代と70 歳代では前者が有意に高値を示していた(p<0.05).また,15-20%振幅帯よりも高い振幅帯では,低い振幅帯とは対照的に,加齢に伴い高値を示す傾向があり,25-30,35-60%までの各振幅帯及び65-70%振幅帯において30 歳代と比較して70 歳代の方が有意に高値を示した(すべてp<0.05)【考察】Lexellによれば,加齢に伴う骨格筋の変化はTypeII線維の脱髄と再支配に始まる変化が,進行によって前者が後者を上回ることで,TypeIIの欠落が進行することであるとしている.これは,サルコペニアに関する記述においても同様であり,加齢に伴う骨格筋の変化として代表的なものである.本研究結果において,中間周波数値は30 歳代と70 歳代の間に有意差を示した.これはTypeII線維の欠落による発火頻度の低下が70 歳代で顕著であること示しており,先行研究結果と一致する.APDF解析では,0-15%振幅帯で70 歳代が低値を示し,25-70%振幅帯では高値を示していた.最大筋力発揮時には,高出力の要求によりTypeII線維を主体とした動員の同期化により大量動員がなされる.結果として筋線維の動員は高頻度に変化し,筋電図波形は基線を通過する頻度が増加して高振幅,高周波の波形が生成されることになる.高齢者では,TypeII線維の欠落によって,動員線維の割合は若年者と比してTypeI線維が大きくなる.これはTypeI及びII線維の電気生理学的特性の違いから,電気的変化の頻度が低下し,基線の通過頻度が低下,波形の極性変化が15-20%振幅帯に集中するため,低振幅帯の減少と中振幅帯の増加に繋がったのではないかと考えられる.さらに,平均振幅値では3 群間に有意な差は見られなかったが,APDF解析では振幅値をもとに分析しているにもかかわらず,これらの有意性を見出すことができた.これは,筋機能の変化に関する感受性の高さを示している事を示唆していると考えられた.今後はさらに研究を進め,各振幅帯の持つ生理学的背景をより明確にする必要性があると感じられた.【理学療法学研究としての意義】加齢に伴う骨格筋の変化は,理学療法プログラム決定において重要な因子である.これを詳細かつ簡便に評価できる方法を確立することは,この過程におて重要なプロセスであると考える.

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top