理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-P-18
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ポスター発表
我が国のヘルスリテラシーに関する研究の動向と課題
光武 誠吾河合 恒大渕 修一
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抄録

【はじめに、目的】リテラシーとは、もとは読み書き能力のことを示す用語であるが、健康情報に関連した文脈におけるリテラシーは、ヘルスリテラシーと呼ばれ、健康づくりのために必要な情報を得て、適切に活用するための能力とされる。ヘルスリテラシーが高いことは、望ましい健康行動や身体的、精神的な健康状態の良さに影響することが示されており、米国の健康政策指標であるHealthy People 2020でもヘルスリテラシーの向上が重点分野の一つとして定められている。健康分野におけるヘルスリテラシーの影響や介入研究について英語で記載されている文献については文献研究が試みられているが、我が国におけるヘルスリテラシー研究について整理した報告は不十分である。欧米諸国に比べ、我が国は単一民族国家で識字率も高いことから、我が国でのヘルスリテラシー研究を整理することは意義がある。本研究では、我が国におけるヘルスリテラシー研究を概観し、ヘルスリテラシー研究に関する今後の課題を特定する。【方法】英語文献の検索には、米国国立医学図書館が提供する文献データベース MEDLINEを用い、"health literacy"と"Japan"をキーワードとした。また、日本語文献の検索には、医学中央雑誌(医中誌)を用い、「ヘルスリテラシー」をキーワードとして検索した。いずれのデータベースでも2012年11月15日を最終検索日とした。採択基準は、1.英語か日本語で記述、2.ヘルスリテラシーが主要な研究対象、3.我が国での研究、4.査読付き雑誌掲載論文、と設定し、タイトルと抄録、本文から論文の内容を筆者が精査した。MEDLINEでは31件、医中誌では21件の文献が抽出され、2つのデータベースで重複していた3件を調整し、合計で49件が検出された。そのうち、採択基準をすべて満たした26件と文献リストより、採択基準をすべて満たした2件、合計28件を文献研究の対象とした。【結果】ヘルスリテラシーの概念整理や米国における健康教育施策に関する紹介を目的とした文献研究が6件、ヘルスリテラシーの尺度開発や健康項目との関連を検討した横断的質問紙調査研究が16件、半構造面接等の質的分析手法を用いた研究が4件、介入による前後比較研究が2件であった。我が国で用いられているヘルスリテラシーの概念や尺度の多くは、Nutbeamが提案する機能的ヘルスリテラシー、相互作用的ヘルスリテラシー、批判的ヘルスリテラシーの3つから成るモデルに準拠していた。欧米では機能的ヘルスリテラシーに焦点を当てた尺度であるThe Test of Functional Health Literacy in Adults (TOFHLA)やRapid Estimate of Adult Literacy in Medicine (REALM)を用いることが多い一方で、我が国では、相互作用的、批判的ヘルスリテラシーに着目した尺度が開発され、質問紙調査にて用いられていることが多かった。また、Nutbeamのヘルスリテラシーモデルでは、ヘルスリテラシーは臨床場面において、患者の治療への理解や医療従事者と患者間のコミュニケーションに影響する「リスク」と、公衆衛生場面において、健康教育や健康づくりのアウトカムとして個人の健康を決定する「資産」として考えられている。我が国でも、臨床場面では糖尿病を呈した者を対象とし、公衆衛生場面では、会社員や市区町村における一般市民を対象とした研究も散見されるが、米国における研究の蓄積と比較すると不十分である。相互作用的、批判的ヘルスリテラシーの高さは、糖尿病患者における糖尿病の管理状態や自己管理に関する自己効力感の高さに関連があることが示され、一般成人では、健康的な生活習慣や適切なストレス対処行動にヘルスリテラシーの高さが関連することが示されていた。さらに、精神的な疾患のセルフケアに関連するメンタルヘルスリテラシーや健康情報の中でも栄養に関する情報に特定した栄養リテラシー、健康情報源の中でもインターネット上の健康情報を扱う能力であるeヘルスリテラシーといったより限定的な文脈でのヘルスリテラシーに関する概念整理や尺度開発が検討されていた。【考察】欧米と比較すると我が国は単民族国家で識字率も高いため、機能的ヘルスリテラシーよりも、相互作用的、批判的ヘルスリテラシーに着目した研究を今後も蓄積していくことが求められる。具体的には、多様な疾患を呈する者を対象とすること、大規模横断調査や縦断調査を用いて、より精度の高いヘルスリテラシーの役割に関する根拠を示していくこと、が課題として挙げられる。【理学療法学研究としての意義】臨床場面における患者との適切なコミュニケーションの確立や、健康づくりの促進のために、ヘルスリテラシーに合わせた健康情報の提供方法やヘルスリテラシーの教育プログラムを検討することは理学療法学研究においても意義深い。

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© 2013 日本理学療法士協会
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