抄録
【目的】理学療法士教育の一つである臨床実習は,知識や技術を習得させるための一つとして重要な要素を占めている.しかし,1966年から行われてきた臨床実習の時間数は年々減少しており,近年,学生の資質や医療従事者としての自覚の低下が懸念されている.知識や技術を習得する場合には,学生の動機づけが非常に重要であり,動機づけにはARCSモデルがよく知られている.ARCSモデルとは注意(Attention),関連性(Relevance),自信(Confidence)そして満足感(Satisfaction)の4つの頭文字をとったものである.筑波技術大学では,本学付属東西医学統合医療センター内に,学内臨床実習施設としてリハビリテーション科を2011年4月に新設した.そこでは,ARCSモデルに基づいた動機づけをおこなうため,希望学生が正規カリキュラム以外に,教員指導のもと臨床実習(プレ実習)を受けられるようにした.それにより,現在,臨床実習前に学内にて実技を経験させ,主体的な学習意欲の向上と知識の定着を図っている.本研究の目的は,臨床実習へのスムーズな移行と,学生教育の質の向上を目的として新設された学内臨床実習施設に対し,学生の意識と傾向を調査することである.【方法】プレ実習に対する意識調査を実施するため,質問紙にて調査をおこなった.対象は、筑波技術大学保健学部理学療法学専攻に在籍する1年生から4年生,計42名のうち,有効回答が得られた33名(79%)とした.質問項目は前年度に実施した事前調査をもとに,(1)学年、(2)プレ実習施設の認知度、(3)プレ実習への参加希望、(4) プレ実習実施の有無、 (5) 考える能力を向上させるための努力、 (6) コミュニケーション能力向上への努力、 (7)学力・知識向上への努力の7項目で作成した.プレ実習への参加希望の有無,プレ実習実施の有無と他の項目との関連を,マンホイットニーのU検定を用いて分析した.有意水準は5%未満とした.解析にはIBM SPSS Statistics19を用いた.【説明と同意】本研究の趣旨や目的を説明し回答は無記名とした.協力は任意でありその許否は成績に関与しない旨を説明した.また個人が特定されないこと,プライバシーは保護されることを説明し実施した.【結果】プレ実習への参加希望者は全学年33名中29名であり,非希望者は4名であった.参加希望の有無に対し学年・認知度・各能力向上への努力の間に有意差は認められなかった.一方,プレ実習参加希望の有無に対し,コミュニケーション能力向上への努力(P=0.003),認知度(p=0.013)に有意差が認められた.また,プレ実習実施の有無と学年(P=0.001)の間にも有意差が認められた.その他の項目では有意差は認められなかった.【考察】有効回答33名のうち,プレ実習への参加希望者は29名であり、非希望は4名であった.このうち,プレ実習への参加希望者は,コミュニケーション能力を向上させる努力をしている傾向があった.コミュニケーションは,対人的な不均衡を解消し,緊張を低減させるために不可欠な要因である.また,認知的・対人的な緊張があると,その緊張を解消するためコミュニケーション行動が促進されるといわれている.今回の結果から,プレ実習へ参加を希望している者は,対人関係が重要だと認識し,対人関係に伴う不安要素を解消しようと努力している可能性があると考えられた.プレ実習の参加希望と実施については,プレ実習を実施したものは,1年次にはおらず2年次以降であることが明らかとなった.しかし,プレ実習への参加希望についてはどの学年も8割以上であった.このことより,1年次から臨床への意識は高くなっており,ある程度の専門教育を受け始めた2年次以降はプレ実習を経験し,臨床実習前に専門過程を習得しようとする意識が高くなっていると推察された.これらの事から,学内にリハビリテーション科を開設し,プレ実習がおこなえるシステムを構築したことは,学生の実習の意識を高め,知識や技術を習得するための行動を起こさせる,動機づけに役立っていると考えられた.今後,この試みにより学習効果が得られているかを把握するため,プレ実習をおこなった学生の知識・技術変化を調査し,検証していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】理学療法士の養成校として,理学療法士の資質を高めるための学生教育に対するシステム構築の一助となる.