抄録
【目的】わが国の高齢者人口は,2025年には3.3人に1人になると予測されており,未曾有の超高齢化社会となる.独居老人や認知症を合併した高齢者が急増する中で,在宅介護の継続性に関する要因やリスクの分析を行う必要があると考える.本研究は,在宅介護者の睡眠の質に着目して,メンタルヘルスおよび介護負担感との関連性を明らかにすることである.【方法】対象は,介護老人保健施設(東京都)の通所リハまたは訪問リハを利用している者とその介護者で構成された21組とした.被介護者のADL能力は,作業療法士がBarthel Indexを用いて評価した.1.睡眠に関する評価:介護者及び被介護者の睡眠の質は,3次元加速度装置Actigraph用いて評価した.Actigraphの装着部位は,非利き手の手首に装着して,基本的に入浴以外は装着を義務づけた.測定に際して,介護者の多くが有職者であるため,活動量が安定している平日の4日間分のデータを解析した.夜間の睡眠区間の決定は,介護者が記録した行動記録表を参照しながらマニュアルモードで設定した.睡眠のパラメーターは,睡眠時間(入眠から最後の覚醒までの時間),睡眠潜時(就寝してから入眠までの時間),睡眠効率(就寝時間中の睡眠時間の割合),活動指数(就寝時間中の身体活動数0以上のエポック数の百分率),睡眠中の覚醒ブロック数(睡眠中の中途覚醒数),5分以上の覚醒ブロック数(睡眠中の5分以上の中途覚醒数)とした.2.メンタルヘルスの評価:介護者のメンタルヘルスに関して,精神健康調査票日本語版30 項目(GHQ-30)を用いて評価した.なお,GHQ-30 は,自記式の質問紙で標準化されている.3.主観的介護負担感の評価:介護者の主観的介護負担感は,日本語版Zarits介護負担尺度の短縮版(以下ZBI-8)を用いて評価した.ZBI-8の合計得点は32点満点で,得点が高いほど介護負担感が大きい.4.データ解析は,相関分析およびノンパラメトリック検定で,有意水準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,倫理審査委員会の承認(承認番号22-08)の下,自発的に参加を希望した介護者と被介護者の同意を得た.【結果】1.介護者の睡眠パラメーター・GHQ30・介護負担感ZBI-8における相関分析:活動指数は,ZBI-8と正の相関が認められたr=0.49(P<.05). 同様に睡眠時間とr=-0.53(P<..05),睡眠効率とr=-0.47(p<0.05)の負の相関が認められた.また,睡眠潜時と正の相関が認められたr=0.60(P<..01).中途覚醒は,ZBI-8と正の相関が認められたr=0.57(P<..01). また,活動指数 と正の相関が認められたr=0.44(P<..05).5分以上の中途覚醒は,ZBI-8と正の相関が認められたr=0.47(P<..05).睡眠効率とr=-0.58(p<0.01)の負の相関が認められた.また,中途覚醒と正の相関が認められたr=0.84(P<..01).GHQ30とZBI-8は,正の相関が認められたr=0.55(P<..05).2.介護者・被介護者の睡眠パラメーターについて:睡眠時間は,介護者359.9分が,被介護者427分より長かった(P<.05).睡眠効率は,介護者90.4%が,被介護者83.5%より多かった(P<.01).活動指数は,介護者43.8%が,被介護者57.7%より少なかった(P<.01).中途覚醒は,介護者7.1回が,被介護者13.1回より少なかった(P<.01).5分以上の中途覚醒は,介護者3.6回が,被介護者6.5回より,少なかった(P<.01).3.GHQ30の正常群・異常群における介護者・被介護者の睡眠パラメーターおよび介護負担感の比較:介護者のGHQ30正常群は,介護者と被介護者の睡眠パラメーターのうち睡眠時間・睡眠効率・睡眠潜時で差がなかった.活動指数は,介護者41%が ,被介護者62%より低かった(P<.05),中途覚醒は,介護者が7.2回,被介護者13.9回と少なかった(P<.05).5分以上の中途覚醒は,介護者が3.8回,被介護者6.6回と少なかった(P<.05).介護者のGHQ30異常群は,介護者と被介護者の睡眠パラメーターの全てにおいて差がなかった.【考察】介護者の介護負担感が増すと熟睡できず,中途覚醒数や5分以上の中途覚醒数も増加して,睡眠の質が低下することが示唆された.被介護者の睡眠の質は,介護者より低下しており,運動介入などにより改善できるか検討することが必要と考えられた.介護者のメンタルヘルス正常群と異常群の比較において,睡眠の質の点で,正常群の介護者は被介護者より熟睡しており,中途覚醒も少なく,自分の睡眠パターンを維持しているものと考えられた.他方,異常群は,介護者と被介護者の睡眠パターンに差がなく同期していることが考えられ,夜間介護も含め両者が同様に睡眠障害を呈していることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】在宅介護における介護の継続性やメンタルヘルスの評価,運動療法の介入効果判定に3次元加速度装置が有効であることが示唆された.