抄録
【はじめに、目的】 従業員満足度(Employee Satisfaction:ES)調査は企業における従業員の声を業務改善に活かする経営ツールである。しかし、本邦ではセラピストのES調査に関する報告は少なく、組織マネジメントへの活用には至っていない。そこで、当法人にて平成22年と平成23年にES調査とES改善活動を実施し、若干の知見を得たので報告する。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究を実施する前に当法人倫理委員会の承諾を得た。【方法】 平成22年9月と平成23年11月に当院リハビリテーション部職員(平成22年70名・平成23年84名)を対象に(株)日本経営社製のES調査システム「ナビゲーター」を用いてES調査を行った。このES調査は1.組織の一体感2.仕事のやりがい3.誇りと帰属心4.コミュニケーション5.組織システム6.上司信頼の6つのカテゴリーの質問と意欲と満足に関する質問に対して7段階評価にて回答するものである。6つカテゴリーを潜在変数、それぞれのカテゴリーを構成する質問を観測変数とし、意欲と満足に与える影響度を解析する共分散構造分析を行った。平成22年の9月に実施した第一回ES調査(以下、第一ES)の結果に基づき、ES改善活動を実施した。その後、平成23年の11月に第二回ES調査(以下、第二ES)を実施し、第一ESと第二ESの意欲と満足の平均値を対応のないt検定を用いて比較した。また、6つのカテゴリーが意欲と満足へ与える影響の変化に基づいてES改善活動を検証した。【結果】 第一ESの結果は以下の通りとなった。意欲の平均点は5.39±0.86、満足の平均点は4.59±1.1となった。また、意欲に対するパス係数は組織の一体感:-0.18、仕事のやりがい:0.56、誇りと帰属心:0.12、コミュニケーション:0.03、組織システム:-0.11、上司信頼:0.12であった。満足に対するパス係数は組織の一体感:0.01、仕事のやりがい:0.11、誇りと帰属心:0.53、コミュニケーション:-0.04、組織システム:0.13、上司信頼:0.31であった。これらの結果より意欲と満足に共通して正のパス係数を示した2.仕事のやりがい3.誇りと帰属心6.上司信頼の維持・向上を目的に平成22年10月から平成23年10月にかけて次のES改善活動を実施した。1)リハビリテーション研究所と研究指導体制を構築した。2)管理職研修を開催し、管理職の資質向上に取り組んだ。3)オフサイトミーティングを開催し、組織目標の共有や上司と部下における意思疎通を図った。第二ESの結果は以下の通りとなった。意欲の平均点は5.05±0.9、満足の平均点は4.59±1.0となり第一ESとの有意な差はなかった。また、意欲に対するパス係数は組織の一体感:-0.2、仕事のやりがい:0.34、誇りと帰属心:0.24、コミュニケーション:0.18、組織システム:-0.1、上司信頼:0.04であった。満足に対するパス係数は組織の一体感:-0.01、仕事のやりがい:-0.1、誇りと帰属心:0.8、コミュニケーション:-0.7、組織システム:0.01、上司信頼:0.12であった。 意欲に対しては2.仕事のやりがい、6.上司信頼の影響度が前年度より低下し、3.誇りと帰属心4.コミュニケーションの影響度が高まった。さらに満足に関しては2.仕事のやりがい5.組織システム6.上司信頼の影響度が前年度より低下し、3.誇りと帰属心の影響度が高まった。ES改善活動の結果、第一ESと第二ESにおける意欲と満足には変化がなかったが、意欲と満足に影響を与える各カテゴリーの影響度が変化した。【考察】 意欲・満足度への影響度が低下した仕事のやりがい、上司信頼、組織システムは自己実現の有無、正当な評価、周囲の支援などのセラピスト自身の利益になる要素で構成されている。また、誇りと帰属心、コミュケーションは患者満足度や社会的使命の向上や他者との連携などの自施設、患者、同僚の利益になる要素で構成されている。つまり、ES改善活動により、利己的だけではなく、利他的な要素が意欲や満足に影響する風土が醸成されたと考えられた。ベンクラーは「利他性を向上させるためには、仲間意識や共感の醸成風土や内発的動機を刺激するシステムを構築させることが重要である」と述べている。従って、ES改善活動がそれらの構築に寄与した可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 ES向上を効率よく図ることは組織マネジメントにおいて非常に重要である。本報告はES向上への取り組みの効果を示すものとして意義があると考える。