抄録
【はじめに】 近年、集中治療領域において、理学療法の重要性が多く報告され、理学療法士(以下、PT)が常駐または専属配置している施設が増えている。専属PTとして呼吸ケアや離床、合併症の予防などを目的にリハビリテーション(以下、リハビリ)を実施している。 当院では2012年4月より既存の集中治療室10床に加えて、重症患者病棟(以下、HCU)12床を開設し、同時にHCU専属PT1名を配置した。HCU専属PTは、病棟に滞在することで主治医、病棟看護師、病棟専属薬剤師、医療ソーシャルワーカーなどとの連携が取りやすい。また、毎朝のカンファレンスの参加や回診の同行により、リアルタイムに患者の情報を把握している。このような環境の中でリハビリを行い、早期離床や呼吸ケア、合併症の予防などに努めている。【目的】 今回、HCU専属PT体制を開始して6ヶ月が経過したために、HCUにおける理学療法介入の現状を把握し、今後の展望と課題を明確にすることを目的した。【方法】 2012年4月~9月の6ヶ月間にHCUに入室した患者168例のうち、術後早期退室可能だった患者(外科術後1泊)と血液浄化目的の患者(日中のみ入室)を除く117例を対象とした。PT介入群と未介入群に分けて、人数・年齢・男女比・平均在室日数・入室時人工呼吸器装着の有無・診療科、さらにPT介入群における離床状況を集計した。集計は診療録より後方視的に行い、統計処理は群間比較にt検定(有意水準0.05)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。また、データ収集や解析にあたり、個人情報保護、匿名化等に厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」(平成20年7月31日全部改正)に従って対応した。【結果】 PT介入群は59例(50.4%)で、未介入群は58例(49.6%)であった。平均年齢は67.5歳、PT介入群は68.5歳、未介入群は66.4歳であり、有意差は無かった。男女の割合は全体で男性58.1%、女性41.9%となり、PT介入群でそれぞれ61%,39%、未介入群でそれぞれ55%,45%であり、比率に有意差は無かった。平均在室日数は、全体で13.8日、PT介入群で22.1日、未介入群で5.5日であり、介入群で有意に長かった(p=0.00006)。入室時の人工呼吸器装着患者数はPT介入群で24例、未介入群で9例であり、介入群で有意に多かった(p=0.0024)。診療科は、PT介入群では救命救急センター14例、内科11例、外科8例、循環器内科6例などであり、未介入群は外科18例、内科14例、循環器内科11例などであった。退室時の離床状況はPT介入群の59例のうち、離床なし(背臥位)が6例、ギャッジ座位が13例、端座位が27例、車椅子座位が11例、立位が3例、歩行が10例であった。【考察】 今回のPT介入群と未介入群に分けた集計結果から、当院HCU入室患者は年齢や性別などに有意差はなかった。平均在室日数と入室時の人工呼吸器装着患者数は共にPT介入群で有意に高かった。これはより重症で長期化する患者に対してリハビリが必要であったという結果となり、他施設の報告とも類似する。 また、PT介入群で退室時の離床状況は、端座位,車椅子座位,立位,歩行を合わせると65%以上であった。今後、離床率の向上を目指し実施するにあたり、離床基準を設定し明確なリスク管理を行う環境づくりが必要と考える。離床基準の設定により、リハビリスタッフ間で共通認識が可能となることや、病棟看護師との協業により離床が促進すると考えられる。さらに今後の課題として、リハビリ介入が必要な患者を選定するための基準を設定し各科医師への周知を行い、介入率の向上や平均在室日数の短縮を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】 集中治療領域でのリハビリスタッフ専属制の報告は増加傾向だが、依然として少ないのが現状である。現状を把握することでPT専属制のメリットやデメリット、問題点などを他施設間で共有でき、集中治療領域でのリハビリが発展すると期待できる。また本研究が集中治療領域での理学療法の有用性などのエビデンス確立に向けた研究の基盤の一助になると考える。