理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-29
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ポスター発表
経頭蓋直流電気刺激の安全性の検討‐実施後のアンケート調査‐
山口 智史田中 悟志守屋 耕平立本 将士前田 和平武田 湖太郎近藤 国嗣大高 洋平
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抄録

【はじめに、目的】近年、頭蓋の外から微弱な直流電気刺激を与えて皮質興奮性を促進する経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)が、リハビリテーションにおける新しい補助的治療法として応用が期待されている。tDCSの安全性に関しては、欧米における調査では痙攣発作等の重篤な副作用の報告はこれまでない(Iyer et al. 2005; Poreisz et al., 2007)。一方、日本では臨床神経生理学会の委員会報告(2011)により安全性や刺激パラメータについて一応の指針が示されているものの、副作用に関する具体的な調査の報告はこれまでなされていない。本研究では、我々の研究に参加した31 名(計108 施行)において、tDCS後にアンケートを実施し、その安全性を検討した。【方法】対象は2010 年から2012 年までに、我々の研究に参加した、健常者および脳卒中患者で31 名とした。健常者は23 名(男性15 名女性8 名、平均年齢24.9 ± 2.5 歳)で、脳卒中患者は8 名(男性4 名女性4 名,平均年齢59.6 ± 10.7 歳、発症後期間平均21.1 ± 12.3 ヵ月)であった。刺激時または刺激後について、痛み、痒み、熱さ、火傷した感覚、チクチクした感覚、不快な感覚、疲れ、眠気、集中が困難、気分の高揚、気分の落ち込み、物の見えの変化、視覚体験(閃光など)、頭痛、吐き気があるかを、4 段階(なし、ややあり、あり、強くあり)で回答させた。また、陽極及び陰極電極のどちらか一方で強く刺激を感じるかについても評価させた。アンケートは、研究終了後に実施した。また刺激前後で、皮膚の発赤の確認や問診、血圧測定を行った。本研究では、DC-STIMULATOR(neuroConn)を使用し、刺激強度を2mAとし10 分間刺激を行った。刺激条件は、陽極刺激、陰極刺激、偽刺激の3 条件のいずれかで、偽刺激では最初の15 秒間のみ刺激を行った。刺激貼付部位は、1 対を一次運動野とし、もう1 対を前額部もしくは上腕部後面に貼付した。電極サイズは、一次運動野には25cm 2 もしくは35cm 2 とし、前額部と上腕部後面では50cm2 を貼付した。電極には、導電性ゴム電極をスポンジで覆い、生理食塩水を十分に浸して使用した。電極貼付前には、すべての対象者で、アルコール綿で十分に清拭し、電気抵抗を下げる配慮を行った。なお、対象者には、実施した刺激条件の情報をブラインドした。データ解析は、それぞれの項目で単純集計を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】所属施設の倫理審査会で承認された研究において、アンケートを実施した。被検者に実験内容を十分に説明し、本人の意志により書面にて同意をえた。【結果】実験には31 名が参加し、108 施行後にアンケートを回収した。健常者は、88 施行に参加し、脳卒中患者は22 施行に参加した。健常者の施行回数では、陽極刺激は56 回、陰極刺激は12 回、偽刺激は20 回であった。脳卒中患者においては、陽極刺激が12 回、陰極刺激が8 回であった。アンケートの回答項目で、有症報告で最も多かったのは、『チクチクした感覚』の項目の「ややあり」で全体の50.9%であった。また同項目では、「あり」で13%、「強くあり」で0.9%であった。続いて、『痛み』の「ややあり」で38.9%であった。強く感じる電極部位は陽極電極下での訴えが多かった。有症事象として、健常者2 例において、陽極刺激の上腕部貼付後に発疹を認めたが、終了後1 時間程度で消失した。その他においても、刺激中の中止もしくは刺激後に医療処置が必要な有症事象は認めなかった。【考察】アンケートの結果、チクチクした感覚の訴え(約65%)が最も多かった。Poreiszらの報告(2007)では約70%であり、ほぼ同様であった。一方で、先行研究では痛みの訴えは約15%であったのに対し、本研究では約40%であった。この相違の理由に関しては、先行研究では刺激強度が1mAの条件も含まれていたのに対し本研究では全て2mAを用いていたためと考えられる。Nitscheら(2003)は、500 例ほどの健常者にtDCSを使用し、痒み、頭痛、発赤などの副作用を認めたものの、重篤な有害事象はなかったと報告している。今回、副作用は2 例(全体の約2%)で発疹を認めたが、重篤な有害事象を認めなかった。今後、さらにデータを蓄積することが必要であるが、日本人を対象としたtDCSの使用でもチクチクした感覚や多少の痛みはあるものの、重篤な副作用がなく実施することができると考えられる。【理学療法研究としての意義】将来的にtDCSをリハビリテーションに応用するための基礎的な知見として意義があると考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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