理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-54
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ポスター発表
乳児の非言語的表出に対する成人のストレス反応について NIRS計測による検討
田邊 素子佐藤 洋介庭野 賀津子
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キーワード: NIRS, ストレス, 乳児
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抄録
【目的】近年、乳幼児が親からの虐待を受けるケースが増加し社会的な問題となっている。背景には、核家族化などによる環境の変化により育児に対し負担感を抱えながら子育てを行っている現状があると考える。子どもの非言語的発声、特に叫喚発声(泣き声)は親にストレスを与えることがあり、虐待の誘因にもなりうることが報告されている。しかし、言語獲得以前の乳児が表出する非言語的感性情報を、母親を含む成人がどのように認知しているかについて解明した研究は少ない。また、育児経験のない成人ついて、乳児の非言語的表出への反応に関する研究も殆どみられない。そこで、今回我々は乳児の非言語表出における成人のストレス反応について近赤外線分光法(Near-infrared spectroscopy: NIRS)を用いて計測し本実験方法の可能性を検討した。【方法】被験者は大学生6 名(男女各3 名,平均年齢21.8 歳)で、全員育児経験は無かった。乳児の非言語的表出は刺激内容を統制するためビデオカメラで録画した動画を用いた。実験デザインはブロックデザインとし、安静20 秒-刺激課題20 秒を3 回繰り返し安静20 秒で終わるようにした。刺激課題は乳児が泣いている場面(cry条件)、泣いておらず比較的機嫌の良い状態(non-cry条件)とし、乳児が何を伝えようとしているかを考えるように教示した。安静課題は画面上に点滅するクロスの固視点を示し、何も考えずに注視するよう教示した。計測は光トポグラフィ装置(日立メディコ社製、ETG-4000)を使用し、計測プローブは、3 × 11 ホルダーを使用し52chを計測した。計測部位は国際10-20 法に基づきFp1-Fp2 ラインに最下端のプローブを配置した。計測指標は酸化ヘモグロビン(OxyHb/mM・mm)とした。解析領域は先行研究を参考に左右の前頭前皮質(pre frontal cortex PFC),上側頭溝(superior temporal sulcus STS)の4 箇所に関心領域(ROI)を設定した。OxyHbは、移動平均を5 秒に設定し、各刺激について3 回分を加算平均した。解析区間はOxyHbの反応が刺激提示時より遅延することから、安静、刺激課題とも開始後5 秒経過時点からの15 秒間とし、OxyHb平均値を算出した。統計解析は、被験者内解析としてcry、non-cry条件による比較を各4 領域にて対応のあるt検定を行った。次にグループ解析として、計測部位(PFC、STS)の左右差、刺激条件について2 元配置の分散分析を実施した。有意水準は5%とし、使用ソフトはSPSS Statistics17.0(SPSS. Japan. Inc.)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は東北福祉大学倫理審査委員会により承認された。対象者には研究内容について十分な説明を行い研究参加の同意を得た。【結果】被験者内解析では、6 名中4 名で4 領域全てにおいて刺激条件により有意な差がみられた。残り2 名も各々1 領域(右PFC 、左STS)を除き3 領域で有意な差がみられた。グループ解析では、刺激条件と左右半球間の同領域に有意な差は認められなかった。【考察】被験者内における解析では、殆どの被験者および領域でcry、non-cry条件によりにOxyHbに有意な差がみられた。OxyHbの計測は、運動課題と脳機能活動の関係を検討する指標として多くの研究で報告されている。今回の2 種類の乳児の非言語表出の刺激課題に対し脳機能活動の差がみられたことから、本実験での計測がストレス指標として使用できる可能性が高いことが示唆される。グループ解析では有意な差がみられなかった。これは被験者が大学生で育児経験がないことが影響したと推察された。違う属性(性別、年代)の被験者を追加し検討する必要が考えられる。また、NIRS計測では光路長の個人差およびチャンネル部位での差が指摘されており、脳の各部位間の比較やグループ解析について適切な解析手法の検討が必要と考える。今回、乳児の非言語的表出について脳機能活動を中心にストレス計測の可能性を検討した。今後他のストレス評価指標との外的妥当性を含めた検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】本実験によるストレス計測方法を確立することは、他分野への応用が期待できる。また乳児の非言語的表出に対する成人のストレスについて明らかにすることは、より大きなストレスを抱えているとされる障害児をもつ母親への指導や支援をするする上で重要な基礎資料となる。謝辞:本研究は、日本学術振興会科学研究費(課題番号24530831 研究代表者 庭野賀津子)の助成を受け実施した。
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© 2013 日本理学療法士協会
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