抄録
【目的】近年、ストレスを評価する手法として、簡便・迅速に交感神経の興奮・沈静を検査できる唾液アミラーゼモニタが注目され、これを用いた報告例が増加しつつある。しかしながら、精神的ストレスについての研究報告は少ないため、本研究では唾液アミラーゼが精神的ストレスのストレスマーカーとして有用か否かを、急性・慢性ストレスに分けて検討した。【方法】研究1(慢性ストレスの評価):対象は本学に在籍する4 年生14 名。体調不良者、過度な運動を行った者、測定期間中に過度な精神的・肉体的ストレスを受ける出来事があった者は除外した。唾液アミラーゼの測定には、唾液アミラーゼモニタ(株ニプロ)を使用した。1)ストレス負荷に先立ち、平常時のアミラーゼを3 回(9:30,12:30,15:30)/日、5 日間測定し、その平均値を用いた。エラー表示・除外基準に該当する測定分(欠損数)が全体の2 割以内のものをデータとして使用した。(測定方法の再現性:r>0.9)2)一つ目のストレスとして、人前での3 分間スピーチを設定した。告知日の翌日より5 日間測定した。測定方法は平常時と同様である。二つ目のストレスとして、臨床実習を設定し、臨床実習前5 日間を測定した。測定方法は平常時と同様である。3)被験者の主観的感情変化を測定するために、STAIを1 日1 回実施した。4)平常時とストレス時のアミラーゼ平均の差の検定には一元配置分散分析を用いた。研究2(急性ストレスの評価):対象は本学に在籍する3,4 年生25 名。除外基準は研究1 に同じ。急性ストレスとして3 分間スピーチを設定した。スピーチの課題カードを引く前に、STAIを記入し、アミラーゼと脈拍を測定した。3 分間のスピーチ終了後は、直後、15 分後、30 分後、45 分後 (30 分後に値が下がり安定した者は除く)のアミラーゼと脈拍を測定した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を書面を用いて説明し協力の同意を得た。【結果と考察】研究1:STAIにおける状態不安は、平常時に比べスピーチ前、実習前では段階IIの者が減り、段階IVの者が増え、その割合はスピーチ前より実習前の方が大きかった。アミラーゼの平均値は、平常時に比べ実習前に有意な上昇(P=0.026)が認められた。個別でみても、ストレスありの目安とされる46 KU/L以上を示した者は2 名から10 名に増加した。以上より実習前のアミラーゼ活性の上昇は実習を目前に控えた学生の不安や緊張状態が反映された結果と推察できる。一方、スピーチ前1 週間も平常時に比べ状態不安レベルが上昇した者はいたが、その割合は実習前に比べると小さく、スピーチは被験者にとって、実習ほどの強いストレス負荷とならず、アミラーゼ活性に影響を及ぼさなかったと考える。研究2:スピーチ当日は、全員がSTAIの状態不安段階IV・Vであった。スピーチ後のアミラーゼ活性値の推移では、変動パターンの個人差が大きく、1)変動が少ないもの (9 名)、2)直前から上昇したもの (5 名)、3)直後から上昇したもの(4 名)、4)直後のみ上昇したもの (3 名)、5)30 分後から上昇したもの (1 名)、6)高値高変動のもの(3 名) の6 つに分類した。25名中9 名は、スピーチ直前・直後に脈拍の増加はみられたものの、アミラーゼの変動は小さく、そのうち6 名は値そのものも平常時とほとんど差がなかった。16名については平常時よりも高いアミラーゼを示し比較的早い応答が観察されたが、最大値を示す時間も初期値に戻る時間も様々で、全員の値が低下し安定したのは45 分後の時点であった。今回の結果を踏まえると急性ストレスのアミラーゼ変動パターンには個人差があるため、ストレスを負荷した後、少なくとも30 分以上は個別に経過を観察しながら測定する必要がある。【理学療法学研究としての意義】唾液アミラーゼは急性・慢性ストレスのストレスマーカーとして有用であることが示唆された。ただし、慢性ストレス評価時には、ストレス時と比較する個人の基礎水準を正確に設定することが重要であり、急性ストレスの評価時には、唾液アミラーゼの絶対値だけでなく、その時間勾配のように、個人の変化パターンにも着目し、個人内変動の検討をすることが重要である。アミラーゼの上昇は、交感神経活動の亢進を意味するが、交感神経はnegativeな感情で高まる場合もあれば、精神的興奮で高まる場合もある。交感神経活動との対応を論ずる上では、快・不快の主観的感情変化を同時に測定し、アミラーゼとの整合性を検討する必要がある。今後、臨床場面において痛みや疲労の評価・治療効果の判定などさらなる検討をしていきたい。