抄録
【はじめに、目的】 運動器慢性痛患者では痛みとともに筋や関節の機能異常を生じていることがほとんどである。その原因としては、初発の痛みによる不活動に加えて防御反応として姿勢の偏移や運動範囲の制限などが引き起こされ、2次性の廃用に伴う筋力低下や筋痛が発症する。このような2次性の痛みは、元来の痛みの領域を超えて広がるため慢性痛の維持・難治化につながる。そのため、運動機能を痛みの尺度と並行して評価することが、運動器慢性痛の診断・治療においては重要となってくる。そこで本研究では、運動器慢性痛患者の多くを占める慢性腰痛について、姿勢・運動障害を評価し、痛みとの関連を捉える試みを行った。【方法】 愛知医科大学学際的痛みセンター外来を受診する慢性腰痛を有する患者5名において、姿勢・動作パターンを計測した。被験者のうち3名は左側に片側性の腰痛を有しており、動作時の痛みとして体幹回旋による痛みを訴える。また、他の2名は両側性の腰痛を有しており、動作時の痛みとして体幹屈伸による痛みを訴える。姿勢・動作パターンの測定肢位は、立位にて安静姿勢時(30秒)、および、立位での体幹屈伸・側屈・回旋時の各動作を自動運動での最大可動域まで行った(安静5秒の後、動作開始し最終域で5秒停止)。測定項目として、ゴニオメーターにて骨盤・下部腰椎の回旋方向および屈伸・側屈方向の可動域を計測し、また、肩峰・第7頸椎棘突起にマーカーを付け、カメラにて体幹全体の可動域を計測した。また、重心動揺計にて安静時および各動作最終域での重心バランスを計測し、筋電図にて脊柱起立筋、腹斜筋の筋活動を計測した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には本研究の趣意を十分に説明し、また、評価内容に関する個人情報は数量的統計的に扱い、個人を特定しない形での研究及び発表に用いる旨を説明し同意を得た。また、本研究は愛知医科大学倫理委員会および浜松大学倫理委員会の承認のもとに行った。【結果】 安静時での骨盤と体幹パターンの関係として、体幹は骨盤に対して正中位に戻すパターンをとり、体幹全体の可動範囲では大きな差がみられなかった。骨盤の安静時および動作時のパターンとしては、正中からの偏移がみられ、それぞれ異なるパターンを示した。片側腰痛を有し体幹回旋で痛みを生じる3名では、安静時の骨盤パターンとして、骨盤回旋方向への偏移が大きく、痛みが生じる方向に骨盤回旋位となっており、かつ、重心バランスもその方向に偏移していた。また、動作時での骨盤可動範囲は小さく、安静時の骨盤回旋位方向の範囲のみであった。一方、両側腰痛を有し体幹回旋で痛みを生じない2名では、安静時の骨盤パターンとして骨盤側屈方向への偏移が大きく、動作時での骨盤可動範囲は回旋で痛みを生じるものと比べて大きく、側屈・回旋とも左右両方向の範囲での動きがみられた。【考察】 体幹は骨盤に対して正中位に戻すパターンをとっており、体幹による対称性への補完が入ることで、体幹のみで特徴を捉えることが難しくなっていると考えられ、体幹全体の動きだけでなく、骨盤の動きを考慮する必要があると考えられた。骨盤の動きに注目してみると、動作痛(回旋痛)を有するものにおいては、安静時において痛みが生じる方向に骨盤回旋位で荷重側となっており、動作時において骨盤の可動範囲は小さく、安静時骨盤回旋方向の範囲のみでの動きであったことから、痛みが生じる方向での骨盤回旋位固定となっており、その方向で不動化が生じている可能性が考えられる。これらより骨盤の偏移に注目することで、姿勢・動作パターンの特徴を捉えることができる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 運動器障害をともなう慢性痛の有病率は世界的に高く、医療費や生産性減少による社会的損失が大きな問題となっている。その中で画像診断などの一般的医学検査では原因が見当たらない非特異的かつ慢性的な痛み患者は多い。このような患者に対して、姿勢・運動パターンの評価を確立していくことで、痛み部位への筋骨格系の関与を探り、不活動・防御収縮による運動障害・問題筋の把握をより詳細にしていくことで、1次的、2次的に生じている痛みへの効果的なリハビリテーションにつながると考えられる。