理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-05
会議情報

ポスター発表
寒冷療法が中枢神経の体性感覚情報処理に及ぼす影響
福田 翔馬吉田 和未竹森 千紘西谷 直樹渋谷 佳樹福利 崇青景 遵之中川 慧大鶴 直史弓削 類
著者情報
キーワード: 脳磁図, 感覚神経, 寒冷療法
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】医療現場において,靭帯損傷などの急性炎症に対して寒冷療法が最も多く用いられている.これは,急性炎症によって生じる浮腫・疼痛などの症状に対して寒冷療法が最も手軽に,また安価に対処できるためである.寒冷療法による急性炎症への効果は,完全には解明されていないが,先行研究によると末梢神経への影響として,神経伝導速度・神経閾値の低下などが挙げられており,このことが疼痛の軽減につながるという報告がある.このように,寒冷療法による末梢神経への影響を報告した先行研究は多くあるが,寒冷療法が皮質活動に与える影響について報告した研究は見当たらない.そこで,本研究では電気刺激に対する神経応答が,寒冷療法によってどのように変化するのか,第一次体性感覚野の活動について検討する.【方法】対象者は,体性感覚に感覚異常を認めず,寒冷蕁麻疹などの既往のない健常成人(7 名)とした.計測は,冷却前後で行い冷却前の条件をcontrol,冷却後の条件をcoldとした.また,冷却前後で皮膚温をThermo-Hunter PT-7LD(OPTEX社)を用いて測定した.脳磁場測定は,306ch全頭型脳磁計Neuromag System(ELEKTA Neuromag社,FIN)を用い,電磁シールドルーム内で計測した.sampling rateは3000Hz,highpass filterは1Hz,baselineは-100 〜0msに設定し,解析区間は-100 〜400msとした.刺激部位は,右手関節やや近位部で,長橈側手根屈筋腱と長掌筋腱の間の正中神経を刺激し,刺激の強さは,運動閾値の直上とした.加算回数は150 回で刺激間隔1sとした.冷却方法は,アイスキューブを袋に詰め,対象上肢前腕部中央を囲むように約20 分,皮膚温が10℃前後に下がるまで冷却した.データの解析には,Neuromag systemを使用し,controlとcoldのデータを解析し比較した.条件間の比較には、t検定を用いた。有意水準は5%以下とした。【説明と同意】本研究は,広島大学大学院医歯薬保健学研究科保健学倫理委員会の承認を得て行った.対象者には,実験前に本研究の趣旨・研究計画を説明し,すべての対象者から文書による同意を得た.【結果】刺激後約20ms後に明確な活動(M20)が記録された.等価電流双極子推定の結果,活動源は刺激対側の第一次体性感覚野に推定された.M20 の振幅は,controlに比べてcoldにおいて有意に減少した(p<0.05).また,潜時は有意に増大した(p<0.05).【考察】末梢神経の冷却は,第一次体性感覚野の活動振幅を有意に減少させ,潜時を有意に遅らせた.これは冷却部位での神経伝導が変化したことが原因であると考えられる.本実験のような末梢での刺激は,活動電位が求心性に感覚神経を上っていき,1 次ニューロンを経て脊髄に入った後,脊髄視床路を上っていき,第一次体性感覚野に入る.現在までにM20 は,末梢神経の活動量と線形関係にあることが報告されている.今回の結果も,末梢での変化が第一次体性感覚野の活動に忠実に反映されていることを示している.今後は、末梢神経および脊髄レベルでの同時記録を行い,末梢神経活動と脊髄および皮質活動の関係を調べることが,より詳細な寒冷療法のメカニズムの解明に必要であると考える.【理学療法学研究としての意義】本研究では,寒冷療法による神経活動減弱のメカニズムが完全に判明してはいないが,寒冷療法によって第一次体性感覚野活動が抑制されることが判明した.これにより,臨床で多用される寒冷療法の末梢・中枢レベルでの基礎的生体反応メカニズムの理解へとつながると考えられる.
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top