理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-17
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一般口述発表
拡大ミラーを用いた錯覚による痛みの閾値の変化に関与する要因の分析
大住 倫弘植田 耕造中野 英樹西上 智彦森岡 周
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抄録
【はじめに、目的】拡大ミラーに映された手を観察することよって,自身の手が大きくなったと感じる錯覚(Magnifying Mirror Illusion: MMI)が,鎮痛に効果的に作用することが報告されている(Mancini 2011).一方で,類似の介入を慢性疼痛患者に行うと,痛みが増悪するという結果が報告されている(Ramachandran 2009, Moseley 2008).しかし,このような結果の違いが生じる原因についてはまだ明らかになっていない.本研究の目的は,MMIによる知覚や情動の変化を,鎮痛効果がある者とない者で比較検討することで,MMIによる鎮痛効果に関与する要因を明らかにすることである.【方法】対象は,健常人19 名(男性8 名,女性11 名),平均年齢22 ± 1.3 歳とした.本課題は,Ramachandran(1995)らのミラーボックス手法を参考に行った.被験者はテーブルの前に座り,身体の中心に矢状面上に設置された鏡(M&Gキタデ社製)に右手が映るようにした.また,左手は鏡の後面に置き,被験者には見えないようにした.被験者は両手を同時に動かしながら,鏡に映された手と右手の観察を10 分間実施した.その後,錯覚の強度の評価(Longo 2009)と,「どのように感じましたか」というオープンな質問(McCabe 2005)を行った.さらにその後,左手背の痛みの閾値と2 点識別覚を鏡に映された手を見ながら測定した.痛みの閾値は,痛覚計(ユニークメディカル社製,UDH-105)により与えられる温熱刺激を用いて測定した.これらの課題・質問・測定を,倍率2 倍の拡大鏡(Magnifying条件)と通常の鏡(Control条件)の2 条件で実施した.なお,各条件の順序効果による影響を除外するためにランダムに行った.統計処理は,すべての被験者において,Magnifying条件での痛みの閾値,2 点識別覚を対応のあるt検定にてControl条件と比較した.その後,MMIによる鎮痛効果があった7 名(鎮痛群)と鎮痛効果がなかった7 名(非鎮痛群)の2 群に分けて比較検討をした.両群におけるMagnifying条件とControl条件での2 点識別覚の変化量を対応のないt検定にて比較した.また,オープンな質問に対する回答結果を4 種類に分類し,それぞれの種類に該当する人数を両群間でカイ2 乗検定にて比較した.有意水準はそれぞれ5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の趣意を十分に説明し,同意を得た.なお,本研究は本学研究倫理委員会にて承認を得ている(承認番号H24-19).【結果】錯覚強度の評価結果より,Magnifying条件・Control条件とも鏡に映る手が自分の左手のように感じる錯覚が中等度生じていたことが確認された.またControl条件と比較して,Magnifying条件では,痛みの閾値の有意な増大,2 点識別覚の閾値の有意な低下が認められた(p<0.05).オープンな質問による回答結果では,MMIによって不快感が生じた者が37%,何も感じなかった者が31%,動かし易さを感じた者が16%,強靭さを感じた者が16%であった.鎮痛群と非鎮痛群を比較した結果では,鎮痛群はMagnifying条件においての二点識別覚の閾値の低下が有意に大きかった(p<0.05).また非鎮痛群は,鎮痛群と比較して不快感が生じた者が有意に多かった(p<0.05).【考察】今回の結果から,MMIによる鎮痛効果が適切に得られるためには,MMIによって2 点識別覚が向上することと,MMIによって不快感が生じないことが重要であることが示唆された.MMIによる2 点識別覚の向上には,第1 次体性感覚野に表現されている体部位再現の拡大が関与すると考えられている(Taylor-Clarke 2004).また,慢性疼痛患者の痛みの改善には体部位再現の拡大が重要であることも報告されている(Maihofner 2004).つまり,MMIによって身体の視覚イメージを拡大させることによって生じる体部位再現の拡大が痛みの閾値の増大をもたらしたことが示唆される.一方,本研究結果ではMMIによって拡大された手の視覚情報によって不快感が生じる者は鎮痛効果が乏しかった.複合性局所疼痛症候群では,患肢の主観的な手の大きさを実際よりも大きく感じていることが報告されている(Peltz 2011)ことを考慮すると,自身の手が大きくなったと感じることを不快に感じることと,痛みとの間には何らかの関係があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】近年,慢性疼痛患者に対して,特殊ミラーや特殊レンズを用いて視覚的に入力される身体の大きさを変化させるリハビリテーション手法が注目を集めている.しかし,本研究結果から,課題中における対象者の身体感覚の変化や情動変化を適切に評価しておかなければ良い効果が得られないことが示唆された.
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© 2013 日本理学療法士協会
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